バブル崩壊後の九十年代初の米・欧資本市場を舞台に展開される痛快な金融スリラー。インバース・フローターとかミュニシパル・ボンドとかいった難しい専門用語がぼんぼん出てくるが、肩の凝らない読み物であると同時に事故防止に役立つ反面教師にもなっている。何といっても、著者自身の実体験に裏打ちされた緻密なストーリー運びには真迫力があり、とてもフィクッションとは思えない。ドイツ・マルクの暴落で大儲けをする結末などは、近未来市場の予測と読むことも出来よう。
一般人には判り難いインベストメント・バンカーやトレーディングの内幕をヴィヴィッドに描いた金融スリラーものも、漸く小説の一ジャンルとして確立した感がある。最近相次いで翻訳刊行されたリンダ・ディヴィスの「蛇の巣」(早川書房)とマイケル・リドパスの「架空取引」(NHK出版)は何れもディーラー上がりの素人作品ながら、本書と甲乙つけ難い力作である。
(明光証券㈱代表取締役会長 岡部陽二)
(1996年1月発行、明光証券社内報「ほうゆう」誌所収)