先日、銀行時代に一緒に働いていた同僚の右田正隆さんから、突如来訪のお申し出があり、何事かと思ったら、彼がフルに4日間を掛けて完成したという立派な水彩画を贈っていただいた。あまりの素晴らしいに出来栄えに思わず息を呑み込んだ。
右田さんからは、10月に彼の最近作の風景画数十点を写真に撮って刊行した画集が送られてきた。表紙が秀作に入選された唐招提寺の佇まいで飾られたこの画集は息子さんの発案で実現した由。礼状を出したところ、12月上旬に奈良に写生に行くので、関西の隠れた紅葉の名所をご存じなら、教えて欲しいとのこと。
それでは、数年前にNHKが京洛紅葉の名所5か所の一つとして採り上げ、最近頓に有名になっている洛北にある圓光寺がよろしいのではと、申し上げた。11月にはすっかり敷紅葉で埋まる圓光寺の十牛の庭は、今年は予約をとっておかないと観られない盛況振りであった。
この圓光寺の庭の一隅には22年前に建立した亡き母の句碑があるので、序に見てきてほしいと付け加えた。
70歳を過ぎて水彩画を描き始めた右田さんが、この句碑を描こうと思い立たれた動機がまた感動的であった。母が戦後満州から子ども3人と祖母を引きつれて帰国した際の強い意志とやはり70歳を過ぎてから俳句を始めた生きざまに甚く刺激された思いの発露と、おっしゃっていただいたのである。
この水彩画を引き立たせているのは、句碑の台座前面を覆っている苔に、一条の光が差し込んできて、妖しく輝き、それが青御影の句碑の彫りに反射している様が、鮮やかに描かれている発想である。句碑の建立当初には、周囲が開けていたが、両側に植えられた楓が成長して句碑を覆うようになっており、昼間でも鬱蒼と幽玄の趣を醸し出している。この楓の葉の隙間から時折太陽の光が眩しく差し込んで来るのである。
句碑を左側に寄せて、右側に小さな石灯篭を配された構図も卓抜である。
何よりも、紅色と黄色のもみぢの葉の一枚一枚、苔や地面を埋め尽くしている枯葉の一枚一枚まで繊細に描き分けられている技量と根気には驚嘆せざるを得ない。
泉下の母もさぞかし悦んでくれているであろうと嬉しい。
右田さんの最新作を下に掲げさせていただく。
(2021年12月16日記)