とにかく、面白くてためになる本である。
住友銀行から朝日ビールの社長に転じた樋口廣太郎さんが、銀行を去るに当って「香典の前払いとしてビールを買ってほしい」と訴えかけた逸話などなど、失敗や挫折・逆境をばねに成功を掴んだ実話に満ち満ちている。
60年を超える連載総数738人の4割を占める経済人について、いろいろな角度からの分析が試みられている。金融機関では、野村證券の4人に次いで住友銀行の3人が多いが、登場人物が挙げている恩人では元住友銀行頭取の堀田庄三さんほか4人に人気集中といった興味深いデータも楽しめる。
登場するリーダーの「履歴書」からの引用が、そのまま著者・吉田勝昭さん(プロフィール下掲)ご自身の履歴書にもなっているのは、劇中劇を観ているようで愉しい。
もっとも、評者の関心は「文化人」の生き様にあり、最近では哲学者の木田元氏が印象深かった。文化人の分析もぜひお願いしたい。
(2012年3月10日、アマゾン・ブックレビュー欄に投稿)