こちら: タイムス調査隊 593
塩尻の博物館に寄贈、公開~地球の不思議探求への鍵
塩尻市北小野の鉱物博物館「地球の宝石箱」が公開している「岡部陽二コレクション」が面白い。個性豊かな世界の鉱物や化石約500点からなるコレクションだ。これだけの量をなぜ、どのように集めたのだろう。人をひきつけてやまない魅力はどこにあるのだろう。収集者で、同館に寄贈した岡部陽二さん(83)=東京都三鷹市=を訪ねた。
10月初旬、都内の待ち合わせ場所に現れた岡部さんは背が高い、気さくな男性だった。京都大学法学部を卒業後、住友銀行に入行し、ロンドン支店長や専務、明光証券会長などを歴任した方で意外にも経歴は鉱物にかすらない。
鉱物との出合いは中学時代。当時暮らした京都府に鉱物標本館があり、登下校のたび眺めていたところ、開設者の薬学博士・益喜寿之助氏(1901~93)に招き入れられたのだという。以来、益富氏が主宰する「日本鉱物趣味の会」にも入会し、ハンマーやルーペを手に採集や鑑定に明け暮れた。東は岐阜から西は秋吉台(山口県)まで訪ね歩き「好奇心から来る美しいものへの憧憬と収集癖を満たした」と振り返る。
就職後は一時鉱物から離れたが海外赴任を機に再燃、世界の結晶や奇石を集め出した。石の文化が根付く欧州ではミネラルショップを訪ね、原石を求めて南米やアフリカに渡ったことも。その当時集めたコレクションが、今回地球の宝石箱に寄贈された数々だ。
こう聞くと非常にぜいたくな趣味にも聞こえるが、岡部さんは「お金に物を言わせるのでは意味がない」と話す。加えて「収集だけが一つの趣味として独立するわけではない」とも語る。
少年時代、鉱物に接する中で養ったのは、「肉眼や嗅覚など五感で鑑定する力」と「地形や地層の由来を考え、地質と鉱物を一体として鑑賞する癖」だった。師匠の益富氏も岩石や鉱物の文献を著す中で、それらを通じて「地球の成り立ちや歴史をこまかく知ることができる」と書き残している。
岡部さんによればコレクションとは分類学で「世の中にどんな種類が存在し、それぞれどう違うかを比徽研究する中に醍醐味がある。加工品でなく、自然の姿に近い原石を求め続けた背景には、地球の不思議を探究し続けたいというロマンがあったのだ。
ところで世界中の石の博物館も目にしてきた岡部さんは、地球の宝石箱について「民間の施設では日本で断トツにすごい」と語っていた。一方、国内では地質学系の専門家が少なく、施設を教育に生かし切れないケースが少なくない。せうかく塩尻にある充実の標本も宝の持ち腐れになっては切ない。産官学が知恵を絞って場所や物を生かし、価値を十分に引き出す中で、未来の"鉱物少年"を育てる必要が求められている。 (有賀文香)