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レアメタルとレアアース

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 10月15日(土)に銀行のOB会「井華会」にて「レアメタルとレアアース」についての卓話をしました。その要旨をレジュメのスライドとともに掲載します。

⇒ スライドを見る(PDFファイル)

 息子の岡部徹が執筆しました『高校生のための東大授業ライブ学問の入口』収録予定の「未来材料:チタン・レアメタル」の20ページの原稿(別刷としてスライドに引用)も配布しましたが、添付は省略します。チタン製品、リチウムの原石と純金属地金、最強力なネオジム磁石、ネオジム・ジスプロシウムの地金などの標本などをじかに見ていただきました。

1、卓話の前置き

 金属資源の世界では、最近20年ほどの間に劇的な変化がいくつか起こっている。

 一つは産業界で必要とされる金属材料の種類がきわめて多様化してきたことである。ことに、レアメタルの白金族、リチウム、インジウム、ネオジム、ジスプロシウムなどの需要が急増し、レアメタルの業界規模は世界で約20兆円、うち日本が3兆円程度を占める(鉄鋼は13兆円規模)までに急成長した。

 二つ目は、金属資源の枯渇の可能性が高まってきたことである。ただし、枯渇の懸念はレアメタルではなく、銅・亜鉛・鉛などのベースメタルの方が大きい。ことに、銅の耐用年数は20~30年程度と推定されている。米国や日本では、現在年間一人当り10Kgの銅を消費しているが、中国では1.4Kg程度と少ない。これが先進国並みに増えると地球上に採掘可能な銅資源が枯渇する懸念が現実味を帯びてくる。

 三つ目は、枯渇とも関連するが、供給面での安定性に疑問符がつけられたことである。レアアースについて見れば、昨年(2010年)9月に起こった中国との尖閣諸島での中国漁船衝突事件に端を発したレアアースの輸出停止問題は、広く一般社会に対しても、レアメタルなどの鉱物資源の安定供給確保が技術立国日本にとって不可欠であり、産業上、経済安全保障上も極めて重要であることを強く印象づける歴史的な出来事であった。需要増に加え、供給面での枯渇懸念と供給不安から、金属資源の価格はすべてが乱高下を繰り返しながらも長期的には高騰を続けるものと予想される。

 四つ目は、地球規模での環境破壊問題に正面から取り組まなければならない状況になってきたことである。たとえば、白金族金属の鉱石から得られるプラチナやロジウムは、自動車の排ガス浄化に不可欠な触媒材料で、平均して1台に5グラム程度は必要である。ところが、プラチナは南アのもっとも含有量が豊かな鉱山でも1トン当り0.1グラムも含まれていない。したがって、自動車一台に必要なプラチナを鉱石から生産するには、自動車一台の自重よりも遥かに重い多量の鉱石が採掘して処理されているという事実は知られていない。東京の空気はきれいになるものの、他方南アではわずかに含まれている貴重な鉱石を選別するために大量の不要な脈石が処理されて膨大な量の廃棄物となって処分されているのである。

 同様の事態は中国のレアアースについても起こっている。世界有数のレアアース鉱山であった米国のマウンテンパス鉱山が、2002年に閉山に追い込まれたのは、環境規制の厳しい米国で採掘・製錬する場合に発生する環境コストの負担が大きな要因であった。一方、経済的な成長戦略を優先した中国は、環境コストを度外視して、極めて低いコストでレアアースを生産し輸出し続けた。その結果、世界市場を独占することに成功したのである。本来価格に反映されるべき、環境保全コストを無視したのは中国の身勝手ではあるが、見かけ上のコストでの価格競争力という指標のみで供給者の優劣が決定される競争原理至上の考え方だけで対応してよいものであろうか。自分の庭先だけをきれいにするのではなく、地球規模での全体の環境保全を考えなければならない段階に差し掛かっているのではなかろうか。

2、スライドの目次

1、鉱物資源の概況
(1)高騰する資源価格 ①中国の爆食、②投機マネーの流入、③開発コストの増大
(2)中国の粗鋼生産量・鉄鉱石・原料炭輸出入推移 生産量;10年間で6倍増
(3)分野別金属素材の市況変動(2003~2009) 6年間でほぼ3倍
(4)鉄鉱石~海上輸送の急増 95%が鉄鉱石(豪州-中国間)
(5)金属材料の世界市場規模(重量では9割強、価格では8割弱が鉄)
(6)鉄鉱石価格の推移(1)2009年まで、(2)2010年 2005年以降、過去のレベルの5倍弱に
(7)銅~中長期的には需給逼迫 可採埋蔵量は30年
(8)アルミニウム~電力価格高騰の影響大

2、レアメタル
(1)レアメタル(Specialty Metal、Minor Metal)の概要 71の金属元素のうち47~57
(2)主要レアメタル17鉱種(重要性・希少性に基づく経産省の定義)
(3)レアメタルの中国への依存比率 アンチモン、レアアース、タングステンの中国依存大
(4)レメタルの特質 ①産業のビタミン ②輸出入産業の活力源 ③情報社会の落とし子
(5)レアメタルの取引分類と市況の関係
(6)1Kgの素材製造で発生する廃棄物とCo2の量 鉄が最小、金の廃棄物は2,000倍
(7)レアメタルの王様;チタン 資源的には無尽蔵、トン当たりの製錬コスト100万円以上
(8)地殻に存在する元素の量 チタンは9番目に多い元素金属、ニッケル、銅は希少
(9)リチウム イオン化傾向最大、金属中で最軽量

3、 レアアース
(1)レアアース(希土類)の概要 埋蔵量は豊富、中・露・米・豪に分布
(2)レアアース17元素 ネオジム、ジスプロシウムはEVのモーター用永久磁石として不可欠
(3)レアアース鉱床の種類 
(4)希土類元素供給上の中国一国集中の実態 重希土類は中国のイオン吸着鉱に偏在
(5)中国2大鉱床の代表的な希土類鉱物の組成(2007)
(6)レアアースの中国依存を解決する方策 ①新鉱山の開発 ②代替資源の開発 
  ③リサイクルによる都市鉱山の活用 ④戦略的な備蓄など資源政策の確立 ⑤研究者の人材養成

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