昨年(2015年)9月9日に英国のエリザベス女王(89歳)は在位63年216日を数え、大英帝国繁栄の象徴であった高祖母のビクトリア女王(在位1832年~1901年)を抜いて、英国史上在位期間最長の君主となった。
これを記念した"Long to Reign Over Us"と題した切手とシート(上掲)が同日発行された。このシートでは英国切手すべてにマークとして刷り込まれているアーノルド・マーチン作の女王アイコン(彫像)だけの第一種切手を中央に、左右には対でこのアイコンの左側に王室のシンボルを配した切手を掲げている。
左側の赤色の切手にはビクトリア女王のメダルとエリザベス女王の写真、右側の紫色の切手にはウインザー城のバッジと1960年に作られた女王の個人旗のマークがそれぞれセットとなっている。
2013年の5月には、"Her Majesty The Queen: Six Decades of Royal Portraits"と題した著名な画家が描いた6枚の肖像画の記念切手が発行されている。左の2枚が60年を隔てた1953年と2013年のもので、後の4枚の製作年代はばらばらである(画家名などの詳細切手の下部に説明)。
エリザベス女王が誕生したのは1926年4月21日、ヨーク公の長女としてロンドンのメイフェアの住宅で生まれた。その時には、彼女が王位を継承するとは誰も思っていなかったが、伯父のエドワード8世が米国人女性のシンプソン夫人と恋に落ちて王位を放棄したため、ヨーク公がジョージ6世として即位したハップニングが彼女の運命を狂わせた。
エリザベス王女は13歳の誕生日に当時18歳のギリシャの海軍士官・フィリップ王子と出会って一目惚れ、47年11月に結婚、52年2月に父ジョージ6世が急逝した後を受けて即位した。
エリザベス女王はビクトリア女王の在位63年7ヶ月を抜いて英国最長となったが、世界史上最長はフランス王・ルイ14世の在位72年(1643年~1715年)、現役のタイ国王・ラーマ9世(1946年~)は今年88歳で在位70年となっている。エリザベス女王が97歳まで王位に留まれば、世界最長ともなる。
在位記録更新の記念切手が発行された9月9日には、エリザベス女王は北部スコットランドでの鉄道開通式に出席され、89歳を過ぎても、毎日激しい公務をこなし続けておられる。これまでに、116ヵ国を延べ265回訪問、毎朝9時に朝食を済ませると、国民から寄せられた200~300通もの手紙を読み、返事を書くこともある。政府文書にも目を通し、週に一度は首相との会談を行なっている。
筆者の在英中には、女王様をすぐ近くで拝顔する機会が毎年何回かあった。公式行事よりも、アスコット競馬場のバドック(馬の状態を観察する下見所)で女王の持ち馬をしげしげと眺めておられる時とか、チャールズ皇太子のポロの試合の応援に来られた時の寛がれた表情が印象的であった。
1988年11月16日に大英博物館法制定235周年を記念して博物館内で初めて催された女王主催の祝賀晩餐会で、エルギン・マーブルの間の女王様の隣のテーブルに招かれ、女王様と親しくお話ができた時の情景は今でも鮮明に憶えている。この時は、大英博物館が日本館の増設のために12億円の募金を行うに当たって、筆者がアドバイザーを頼まれ、成功裏に満額集められた御礼として招かれたのであった。