英国における過去200年間に行われた医療分野での革新的な発明・発見を6件に絞って図案化した記念切手が2010年9月に発行された。功績のあった医学者の肖像ではなく、研究や開発の対象を円形の中にアレンジしたデザインのアイディアは奇抜である。
上段左;Heart-regulating beta blockers synthesised by Sir James Black,1962(1st)
ジェームス・ブラックはベータ・ブロッカーと呼ばれる低分子阻害薬の合成に成功し、不整脈・高血圧などの治療に革命的な変化をもたらしたスコットランドの薬理学者。現代の創薬研究の嚆矢となった功績により1988年にノーベル賞を受賞。
上段中央;Antibiotic properties of penicilin discovered by Sir Alexander Fleming, 1928 (58)
アレキサンダー・フレーミングはリゾチームとペニシリンという抗菌性を有する物質を1920年代発見したスコットランド出の細菌学者。ペニシリンが実用化されたのは1940年代に入ってからのこととなり、1945年にノーベル賞受賞。
上段右;Total hip replacement operation pioneered by Sir John Charnley,1962 (60)(ジョイント部の模型図を下掲)
ジョン・チャーンレイは現在では最も普遍的に行われている大腿骨などの人工骨への置換手術を1962年に初めて行なった外科医。英国には大腿骨骨折の患者数が極めて多いので、この手術の意義が高く評価されている。
下段左;Artificial lens implant surgery pioneered by Sir Harold Ridley, 1949 (67)
ハロルド・リドレイは人工レンズを眼内に挿入する手術を1949年に初めて行なった眼科医。
下段中央;Malaria parasite transmitted by mosquitoes proved by Ronald Ross, 1897 (88)(原図を下掲)
ロナルド・ロスはマラリア寄生虫の蚊による媒介過程を解明して1902年に英国人としては初のノーベル賞を受賞。
下段右;Computed tomography scanner invented by Sir Godfrey Hounsfield, 1971 (97)
ゴッドフレイ・ハウンスフィールドはCTスキャンと称されるX線を利用しての体内構造の透視診断法を開発し1979年にノーベル賞を受賞した電気エンジニアー。
6名のうち、3名が新薬の開発に関連した学者で、3名は手術法や医療機器を開発した科学者が選ばれているバランス感覚は興味深い。わが国の著名な医学者を同様の基準で選べば、さしずめノーベル賞を授与された利根川進、山中伸弥、大村智に、野口英世、北里柴三郎、志賀潔を加えた6名といったところになろうか。全員が薬の開発関連で、残念ながら新しい治療法や医療機器の開発者は見当たらない。わが国が得意とする内視鏡も開発者はフランスとドイツの科学者である。