個別記事

ペニー・ブラック発行175周年記念 ~英国切手の魅力シリーズ~(5)~


160112BlackPenny175thAniv.jpg

184056日に世界初の郵便切手Penny Blackが英国で発行され、その翌日にはPence Blueと呼ばれる2ペンスの切手が発行された。その175周年を記念して、191556日にペニー・ブラックとペンス・ブルーを二枚ずつ組み合わせたシートと単片の記念切手が発行された。

2種ともに175年前に発行された切手そのままで、右上隅に現行切手に必須のエリザベス女王のマークと"1st"の額面(100gまでの定型書簡の翌日配達料金)が白抜きで追加されただけのシンプルなデザインである。記念シートの背景には1840年当時の凹版印刷工場の切手印刷現場が描かれている。

ペニー・ブラック(右上)の刷色は黒色で、図案には1837年に18歳で戴冠したばかりのビクトリア女王の横顔が印刷されている。この肖像は女王のロンドン市長舎訪問を記念して作成されたメダルを基に作成され、1901年の女王崩御まで使われた。もっとも、背景の黒色は翌年には赤茶色(ペニー・レッド)に変更された。この変更は黒色のインクが赤色の消印のインクを弾くため、消印を抹消して再使用されるケースが頻発したためと言われている。

当時の1シートは合計額がちょうど1ポンドになるように240枚綴りで、切手の下左右角には、偽造防止のためにチェックレター(秘符)と呼ばれるアルファベットが打刻されている。アルファベットの組み合わせは240枚すべて異なっており、左下は縦列の、右下は横列の関係を示している。

ペニー・ブラックは68百万枚発行され、現存している数も多いが、コレクターの人気も高く、未使用のものは1枚が百万円内外、普通状態の使用済みは4万円程度で取引されている。


 1990年にはペニー・ブラック発行150周年を記念して新しい普通切手5種が発行された(下掲)。これはブラック・ペニーに使われたビクトリア女王の肖像にエリザベス女王の肖像を重ねたものである。このエリザベス女王の輪郭が国名に代わるマークとしてすべての切手に刻されている彫像の原型はアーノルド・マーチンという彫刻家が制作したものである。現行の英国普通切手は彼の名にちなんで、マーチン切手(Machin Stamp)と呼ばれている。

それ以前の週年にも記念行事などは行われたものの、記念切手の発行はなかった。

160112BlackPenny150thAnniversary.jpg

 ペニー・ブラックを発行し、料金前納を採用した全国一律の郵便制度は学校教師をしていたローランド・ヒルらの努力により確立された。

これには、英国の郵便は1516年にヘンリー八世がRoyal Mailとして創設し、1635年にはその利用が一般公衆に開放されたものの、原則受取人払いのPostage(郵税)は王室の貴重な収入源となっていたため、当時の郵便料金は実際のコストに比してかなり高かった、という背景があった。

郵便の利用が全国民に拡がらないのは料金が高すぎるのが最大の問題であることに気付いたローランド・ヒルは、当時の料金原価に占める搬送コストは2%を占めるに過ぎないことを実証して、1837年に「郵便制度改革:その重要性と実用性」という政策提言のパンフレットを出版、当時距離によって4ペンスから17ペンスとされていた基本料金を一挙に1ペニーに引下げ、かつ距離にかかわらず全国一律の前払いとすることを提言したのである。

この改革案は料金引下げの恩恵を受ける民衆や商工業者の強い支持を得、国会議員からも賛同者が出て、政府を動かした。

この功績で郵政次官に登用されたローランド・ヒルを「郵便制度の父」とか「郵便切手の発明者」と称賛している記述も見られるが、これは必ずしも正鵠を得ていない。英国には王政郵便の長い歴史があり、徴税目的の印紙もすでに存在していたが、料金前納で重量制の全国均一料金の郵便切手を導入して需要を喚起し、郵便料金の画期的な引下げを実現したところに彼の改革の真骨頂がある。

わが国でも明治4年に英国に遅れること31年で、木彫の龍文切手(下掲)が発行されて郵便制度が整えられたが、当初の料金体系は既存の飛脚屋に配慮して距離逓増制を採用、英国に倣って全国均一料金に移行したのは2年後の明治6年であった。

160112Ryumonkitte.jpg








コメント

※コメントは表示されません。

コメント:

ページトップへ戻る