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23 チャールズ皇太子──企業と地域社会の共生を主導


 切手収集のことにも触れておきたい。

 方寸の小片に凝縮された図柄に魅せられ、中学生の頃から日本の切手を集め始めた。途中で何度か途絶えたが、空白期間は後から埋めて継続的にいまだに集めているので、七十年近くの蒐集歴になろうとしている。こつこつと続けてきた結果、日本の記念切手では一八九四年(明治二十七年)発行の明治天皇銀婚記念切手から最近のものまで全ての種類を揃えることができた。 

 英国の切手もかなり系統的に集めている。図案や紙の質、印刷技術が優れているのは、何といっても英国と日本の切手である。米国にはフィラテリスト(切手収集家)は多いが、米国切手の質は最悪である。

 一九八五年(昭和六十年)に初めてロンドンへ赴任して間もなくのことである。切手の取り持つ縁で、マーチャンドバンク、ホワイト・ウェルド社のクライブ・スミス氏の知己を得ることができた。同氏は大の切手マニアでコレクターであると同時に、切手の値上がり益を狙う投機家でもあった。彼に連れられて行ったシティ近くのストランド街での切手市で、日本では垂涎の的であった明治初期の希少な切手が思いもよらぬ安値で手に入れることができたのである。これには驚いた。その後は、チャーリング・クロス駅横の骨董市などにも足しげく通った。

 出張などで欧州大陸に出掛けているうちに、切手マーケットが各地に存在していることを知った。パリのシャンゼリゼ大通り、ブラッセルやマドリッドでも盛大な市が立っていた。

 商売柄、外国コインも収集するようになった。各国の中央銀行に行く機会がしばしばあり、こうした機会に新しい記念コインを譲ってもらったりした。土産物用のコインが売られていることも多く、いつしかコイン収集にも興味を抱くようになったが、収集は中途半端に終わっている。

 チャールズ皇太子との邂逅にも触れておきたい。

 チャールズ皇太子が主催する「ビジネス・イン・ザ・コミュニティー」に参加したのが、殿下との機縁の始まりである。

 殿下は私費でスタッフを雇い、八〇年代初めから①地球を環境破壊から守る、②伝統的な建築物を残すなど都市の美観を守る運動を主導されてきた。この二つに加えて企業の地域社会との共生を提唱する運動が「ビジネス・イン・ザ・コミュニティー」であった。

 この運動には、英国の財界人が多数参加していたが、なぜか日本人は私だけであった。

 一九八九年(平成元年)にベルリンの壁が崩壊した時には、率先して英国の財界人を連れて東欧諸国を訪問するなど、この運動の国際展開にも注力されていた。私も殿下の率いるミッションの一員としてプラハやブダペストを訪問、地場の企業家と話し合った。その後、殿下と我々メンバーが議論を重ね、東欧諸国への投資基金の創設や東欧の若手経営者向け市場経済研修プログラムなどが次々に実現した。

 さらには、米国東海岸のサウスカロライナ州の港町・チャールストン訪問にも同行した。この町には植民地時代からの古い街並みがきれいに保存されているので、景観保護のあり方について企業人と現場で議論をするのが目的であった。


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 この集まりで会員に求められたのは、資金の寄付といった金銭的なものではなく、自らが体を動かしての奉仕や協力であった。会では、殿下から「バンカーとしてどう考えるか」などのご下問があり、参加者がそれぞれの意見を述べた。殿下は一人ひとりの意見にじっくりと耳を傾けられ、最後に殿下自身が、その日の議論をまとめる形で締めくくられるのが通例であった。

 ウィンザー城やエジンバラのバルモラル城などでのパーティーに招待されることもしばしばあった。ただ、当時からダイアナ妃とは不仲であったので、パーティーの前には、お付きの方から「殿下とは何を話しても構わないが、ダイアナの話題だけは避けるように」と厳しく釘を刺された。

 また、殿下が選手として出場するポロの国際試合にも招かれた。サッカー競技場の四倍も広いグラウンドを駆け巡るポロの競技は予想以上に勇壮なものであった。身近に接して、殿下はプロ顔負けのスポーツマンであると同時に、何よりも自然や田園を好まれる思索家でもあることを知ることができた。

 殿下に顔と名前をしかと覚えて頂いた日本人はそうはいないと思い、殿下との思い出を一九九四年(平成六年)十月十九日付日本経済新聞の「交遊抄」に寄稿した。その一節を紹介しておこう。

「我が家の応接間には前後十三年に及んだ住友銀行ロンドン駐在時代の懐かしい思い出として、私共夫婦と一緒に撮って貰ったチャールズ皇太子の写真と帰国時に殿下より頂戴した感謝状の額が掲げてある。皇太子をお友達として紹介するのは不敬の謗りを免れないかもしれないが、最近のダイアナ妃との不仲・別居についてのマスコミの報道は、非は挙げて殿下側にありとする一方的なものが目立ち、我慢できない」


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