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私の手から生まれた雛たち 大阪府枚方市 宮軒瑛子

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 "あかりをつけましょ ぼんぼりに お花をあげましょ 桃の花"

 お雛さまを見ていると心が安らぎ、命の洗たくができるような気がします。町やデパートでは雛祭り商戦が真っ盛りで、あちこち見て歩くのが楽しくなります。

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 私はお正月過ぎから雛祭りまでの間に、手づくりの雛人形を作るのが年中行事のようになってしまいました。

 そもそもの始まりは高校一年のとき。美術系の選択で手工芸をとり、卵のお雛様を作ったことから。卵の殻、二個に顔を描き、衣装をつくって着せるとかわいい卵雛のできあがり。

 あれから三〇年、そのときの卵雛が実家に大切に保存されていたのです。それは今、ケースの中に入れてわが家に飾られています。衣装は色あせているけれど、上品な顔立ちです。

 結婚して子供が生まれ、育児の忙しさでつくれない期間がずいぶん長かった・・・けれど、子供のあどけない行動の喜びと驚き、そして成長のあとをすべて残しておきたくて、その気持ちを凝縮したような赤ちゃん雛もつくりました。

 また、菜の花や桃、梅、松葉、木の実などを空き容器に生け、生け花感覚で菜の花雛もつくりました。その年だけの短命なお雛様です。

 ここ数年、子どもの手も離れ、私の好きな手芸や人形づくりを楽しむ時間が増えました。つい、興が乗って、いくつもつくってしまいます。目に入るもの、あれも、これもお雛様になりそう。空き容器、木の実、石ころ・・・・、どれも雛人形がつくれそうに思えてくるのです。

 わが家には松ぼっくり、ひょうたん、はまぐり、大豆、海岸で拾った石などでつくったお雛様が並び、私にほほえんでくれています。次は木彫りや紙粘土、折り紙などに挑戦しようと考えています。

 普通なら捨ててしまうような身近な材料から、生まれる私の手づくり雛たち。これまで以上に心をこめてつくり、大切にしていこう。

 少女のころにつくった卵雛は、母のおかげでそのころのまま。あのとき、同じクラスに三〇余人が同じ卵雛をつくったけれど、今も私のように大切に持っている人がいるだろうか?なんて、あのころをふり返ってなつかしんでいるのです。

(スーパー・タイエー刊行の暮らしの情報誌「ふれあい」<エッセー>1990年3月号所収)

     

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春になれば ひな人形作り

 毎年、お正月が過ぎると早く春が来ないかと心待ちにしている。自分の手でひな人形を作るからだ。いままでいろいろな素材でたくさんのひなを作ってきた。卵、石、木、木の実、空き缶、布、、毛糸、千代紙。あれもひなになりそう、これもと思うと素材には不自由しない。

 子供のころ豊かな時代ではなかったけれど、母がいいにおいのする小さなひなを飾ってくれた。それには素朴な美しさとあたたかな雰囲気が漂っていた。結婚し、子供は男ばかりだが、いくつになってもひななしには春を迎えにくい。年を重ねるほどにその思いが強くなる。

 今年も秋のうちに拾っておいたドングリや折り紙のひなたちが少しずつでき上がっている。大きな素材や生花で作ったものはその年限りだが、他の素材で作ったものはずっと大切に保存している。それぞれにいろんな思いが詰まったひなたちを全部並べてみるとやっと桃の節句が近いことが実感される。

 多少悩みがあったりしても、ひなたちを眺めていると春のような気分に浸ることができる。自分のためだけにひなを作って飾る。誰にも負けない最高の贅沢だと思っている。(大阪府枚方市、宮軒瑛子、主婦・50歳)

(1990年2月10日付け読売新聞「ティータイム」欄所収)

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