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平成4年、故岡部利良の著作「旧中国の紡績労働研究」書評5(岡部 イサ)

「旧中国の紡績労働研究」出版のいきさつ

岡部 イサ

本書は夫・利良が一九四三年に執筆を終えた旧稿を爾来五十年近くを経た今日、しかも著者が故人となってから遺族の手で出版するという異例づくめの書物となりました。本書の対象は何しろ大戦前の旧中国の経済であり、日中関係が大きく変化した今日の時点で出版することにつきましては、夫の生前から友人の方々はもとより家族の間でも異論のあるところでございました。しかしながら、この「旧中国における紡績労働の慣行調査」は夫が一旦就職した東洋経済新報社を辞め、三十歳にして再び学問の世界へ戻っての初仕事であっただけに、これに打込んだ情熱とエネルギーには相当なものがあったものと想像しております。

このような経緯から、夫自身も昨年十月に再入院してからも、まさか還らぬ人になるとは思ってもいなかったらしく、退院してしばらく休養の後、既に書き直し終えた原稿に今一度目を通して出版するつもりでいたようでございます。その後病状が容易でないことを悟ってからは、最期まで本書の出版のことのみ心にかけておりました。

従いまして、この本を出版することが故人への何よりの供養と思い、没後直ちに京大の高寺貞男先生にご相談の上、中国経済にご造詣が深い九州大学の西村明先生に出版の企画・監修等一切を全面的にお願いした次第でございます。西村先生にはご自身のご研究でご多忙中のところ大変なご無理を強いる結果となりましたが、細部に亙る綿密なご校閲に加えてご懇切な「解題」を賜わることが出来ましたのは望外の幸せでございます。お蔭様にて故人の一周忌には上梓の運びとなりました。

これもひとえに西村先生の献身的なご尽力と九州大学出版会の藤木雅幸様はじめ関係者の方々のご協力の賜物であり、感謝の気持ちでいっぱいでございます。本当にありがとうございました。重ねて厚くお礼申し上げます。

1992年11月刊行岡部利良著「旧中国の紡績労働の研究」栞所収)

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