日本工業倶楽部有志での勉強会「コーヒーブレイクの会」において、2019年11月28日、上掲のPDFスライドに沿って「社会保障のあり方を問う」と題した解説を行なった。
社会保障費は32.6兆円(2020年度の概算要求)と一般会計の3割を占め、前年比2.1%増で過去最大となった。1990年度から30年間で約3倍に膨れ上がっている。これを税収では賄いきれず、赤字国債の発行で凌いできた。
この結果、給付と負担の見直しに手を付けられず、将来世代へのツケ回しが増え続けている。
政府の債務残高は1,000兆円に達しているが、年金を現在の水準で払い続けるためには、さらに1,110兆円が必要であり、これが隠れた債務となっている。これを回避するにはマクロ経済スライドを毎年発動して、年金支払いの水準を2~3割引き下げるしかない。
日本の年金制度の国際比較での評価は低く、2019年度の国際ランキングは37か国中31位と低い。
医療保険については現状では平均12%弱に留まっている自己負担率を平均で3割にまで引き上げるといった抜本的な改革が不可避である。
介護サービスの現物支給が原則の日本の介護保険は諸外国からはまったく評価されず、追随する国は存在しない。
このような状況から判断して、わが国の社会保障は、年金・医療・介護ともに、現状のままでは、持続不可能であることは明らかである。
他方、最近の新聞記事を眺めると、①企業年金、70歳まで加入~確定拠出・期間を延長、②厚生年金パート適用、拡大2段階、③75歳以上、医療費2割負担検討、④全世代型会議、医療費負担増に強い医師会の反発といったタイトルが目につくが、これらの改革案は、制度の根幹を組み替えるものではなく、いわば枝葉末節の手直しに過ぎない。
人生100年時代に備えるには、健康医療政策を全面的に見直さなければならない。介護も高齢者を弱者と見做して介助するだけの今のスタイルは改めなければならない。生き甲斐を見つけ、尊厳を保つ暮らしを可能にする医療・介護・生活支援に加え、食事や運動で病気にならない健康作り、認知症になってもがんになっても孤立させない社会が実現できる一元的な政策が必須である。
こうした社会保障改革の政策論議の前提として、年金・医療・介護の実態・ファクトを知ることが肝要である。
この解説では、諸制度に一貫した理念がなく、市場原理を無視し、行政の扱いもバラバラで、到底高齢者の安心には繋がらない、といった現行の社会保障システムに内在する基本的な問題の所在を示すので、皆様方ご自身で対応策を考えていただきたい。
社会保障制度の改革は、これを政争の具として、ポピュリズムが蔓延る事態は避けるべきである。また、国民全体のリテラシーが低すぎるので、学校や成人教育の場で社会保障を学べるようにすることも重要である。