PDFファイルはここをクリックしてください「社会保障制度のあり方を考える」.pdf
「社会保障制度のあり方を考える」と題したテーマで、添付のスライドを用いて三回の講演を行なった。
① 2018年3月22日、日本工業倶楽部「コーヒーブレイクの会」
② 2018年6月13日、コーポレイト・ガバナンス・ネットワークの「自主研究会」
③ 2018年6月23日、三井住友銀行OB有志の「井華会」
内容は講演ごとに微妙に異なるが、結論を一言で要約すると、給付抑制へ向けての抜本的な改革が実現する可能性は現状ではほとんど考えられない。国債の借換えができなくなって、社会保障給付が強制的にカットされるリスクが高まっている、という見通しである。
その論拠のキーワードとして強調したのは次の諸点である。
1、 シルバー・ポピュリズム;高齢者の投票参加率が高いので、政治家は高齢者に阿った若年層から高齢者層への所得移転政策を掲げざるを得ない。これを改めるには、若年層の意識改革には期待薄であり、彼らに投票意欲を持たせるような若手の有力政治家の出現を待たなければならない。トランプ大統領が政治に無関心であったラストベルト地域の白人労働者の票を堀り起こした手法である。
2、 既得権益を死守する医師会など業界団体の妨害を排除する政治手法を導入すること。医療分野については小泉政権も手が出せなかった。加計問題の失敗は、特区に認める大学数を1校に絞ったために、折角の国家戦略特区が権益化した点にある。
3、 年金・医療・介護の領域では、日本の常識は世界の非常識である事態が多見される。たとえば、現物給付方式の介護保険を見習おうととする国は存在しない。マスコミが世界の常識に目を向けないのも問題。
日本こそ、大衆迎合主義の危機に直面しているとして、その問題点を鋭く衝いた「脱ポピュリズム国家」(2018年5月、日本経済新聞社刊)を著した八代尚宏氏は、「反ポピュリズム政策の三本柱」として次の3改革を挙げている。
1、 労働・社会分野の改革;正しい選択肢は現在の給付抑制か、将来の大幅な給付削減しかない。現状の維持は不可能である。
2、 「官制市場」の改革;現行の医療や介護サービス市場は、画一的な診療・介護報酬という公定価格で管理されており、事実上の社会主義体制の下にある。このため、サービスの質に応じた適切な価格形成が困難となり、サービス不足と過剰が混在している。このシステムは維持可能ではない。
3、 経済のオープン化;モノやカネの移動は国際的に大幅に自由化されてきたが、ヒト(労働力)の移動自由に日本は大きく立ち遅れている。
私が、上記の1と2に関連して主張してきたのは、次の諸点である。
1、 年金分野においては私的年金保険の大幅拡充;個人の私的年金への加入義務化と企業に対する提供の義務化
2、 医療については、①混合診療の完全自由化と自由診療領域の大幅な拡大、②株式会社病院への保険診療全面開放と公的病院の株式病院化によるガバナンスの強化、③病床過剰の因となっている病床規制の撤廃