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<書評>静岡県立大学大学院経営情報イノベーション研究科教授・西田在賢教授著「ソーシャルビジネスとしての医療経営学」

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 西田在賢先生が静岡県立大学大学院教授に就任されて5年になる。赴任された翌年に、学外からの講師も加えて医療経営人材養成講座を開始したところ、折しも公立病院改革が始まり、地域医療の対策元となる静岡県から『県内公的病院幹部を対象とした医療経営人材養成講座』を相談されて09年度に開講し、今年受講する第5期生までで、合計30病院、76名の病院幹部が参加した。

 この30病院は県内公的病院病床数の約9割を占めており、公的病院の幹部養成とレベルアップに少なからぬ役割を果たしてきた。また、社会人を対象としたゼミでは、たとえば医師や看護師不足の実態を調べて、実施可能な具体的な対応策を考えさせるといったきわめて実践的なテーマを採り上げるように指導しておられる。

 県内の病院経営に携わる人材養成に正面から取り組んでこられたこれらの実績を踏まえて、本年4月には、静岡県立大学大学院「経営情報イノベーション研究科」の付属組織として「医療経営研究センター」が設置され、初代センター長に西田先生が就かれた。これは、地域医療体制を県単位での医療・介護・福祉を包含した施設間連携の中で構築するためのマネジメント研究と人材養成を試みるきわめてユニークな研究センターである。

 「ソーシャルビジネスとしての医療経営学」は、このような人材育成に当っての基礎的な教科書として構想されたもので、皆保険制度を維持しながら病院、診療所、介護施設などの経営を持続させるための経営手法が体系的に解説されている。

 ソーシャルビジネスという概念はわが国ではあまり使われていないものの、社会問題の解決を目的として収益事業に取り組む事業体のことで、公益法人、NPO、共同組合、株式会社といった法的形態は問わない。筆者は、介護保険導入後の社会事業の対象として、病院や診療所だけではなく、介護施設や福祉サービスなどの事業を複合的に行ない、地域住民のニーズをワンストップで切れ目なく吸い上げる医療・介護事業をソーシャルビジネスと捉えている。

 病院の経営戦略といった時に、一般企業と同じような収益極大化の戦略では、市民から受け入れられない。そこで必要なのが「経営持続性」で、外に向かっては「病院がなくなったら困るでしょう」ということである。経営側にとって大事なことは、経営環境に合わせた目標設定の仕方である。このような問題意識で、解決の手法が具体的に示されている。

 本書は優れた教科書であるが、教科書特有の生硬さはまったくなく、すっと頭に入る。随所に「エピソード」というコラムが設けられていて、「医療費支出の国際比較」「医療業における経営品質」といったテーマがちりばめられている。

 10年前に刊行された「医療・福祉の経営学」は、医療経営学の体系化を試みた優れた著作として第16回(平成14年度)の「吉村賞」を受賞され、この分野の数少ない定番の教科書として重宝されてきた。ところが、介護保険の導入により高齢者介護を含む広範な医療・介護を一体的に捉えた経営体制の確立とそれを支える人材育成が喫緊の課題となったことから、全面的に練り直された新しい著作が本書である。

(評者; 医療経済研究機構副所長 岡部陽二)

(2011年7月10日、医療経済研究機構発行「医療経済研究機構レター"Monthly IHEP"」No.199、p25 所収)

 

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