個別記事

<書評>「医療改革の旗手・武弘道が語る病院経営は人なり」

090706byouinkeieihahitonariLogo.jpg  

 

 

 

 

 

書評<この一冊> 
「医療改革の旗手・武弘道が語る病院経営は人なり」
未来医療研究所所長 武弘道著  ■財界研究所刊、定価;本体1,500円+税

 武弘道先生は、去る四月十七日にがんで亡くなられた。享年七二歳であった。昨年三月末に川崎市の病院事業管理者を退任され、「未来医療研究所」という夢のあるネーミングのコンサルティング会社を立ち上げて案件もいくつか持ち込まれ、これから仕事を本格化される矢先のご逝去であった。

 未来医療研究所は「公立病院を過去、現在、未来を時系列でとらえて、その病院の将来を予測したい」という武先生の思いを込めて名付けられたものであっただけに、先生のご早世は惜しみても余りがある。

 本書は、病床にあった武弘道先生の口述筆記によって完成したユニークな遺著である。口述ではあるが、先生自ら綿密に校正され、「あとがき」は先生の直筆である。プロの編集者の手で、テーマ別にポイントを掴んで構成されており、きわめて読みやすい。

 武先生は鹿児島市立病院の小児科の臨床医として五つ子を見事に育て上げるなどの実績を重ねながら、病院管理者としても同病院の小児科を全国国公立病院のなかで最大規模の一五〇床にまで拡充された。平成一三年八月には、この実績に感銘を受けた土屋埼玉県知事から三顧の礼をもって埼玉県立の四病院の病院事業管理者として迎えられ、四年間で七〇億円の収支改善を果たされた。次いで招聘された川崎市立の三病院でも、前年度までの十億円の赤字をわずか一年で黒字化することに成功された実績はすでに広く知られている。

 このように大幅な病院収支の改善を、人員や費用の削減といったリストラは一切行わずに、逆に人材や設備への投資を増やしながら、それを上回って生産性を向上させることにより拡大指向で増収増益を実現しているのは、目を見張るばかりである。

 武先生は、その実績の凄みから「医療界のゴーン」とも賞賛されたが、決して強面でなく、小児科医であっただけに、根っからの心優しい気配りが持ち味であった。

 病院の医師・看護師・事務職員など現場で働く多くの方々に積極的に目的意識を持ってもらうことが改革への捷径であることを熟知して、彼らに過去からの詳しいデータを示したうえで、徹底的に彼らとの対話をされるのが、改革の手法の最たるものであった。

 このほかにも、全職員の士気を高め、病床をフルに稼動させるためには、看護師を「副院長」に登用し、病床管理は看護師副院長に任せるのが必須と力説されている。また、学閥を解消し優秀な医師の確保するために先生自ら全国の医科大学へ行脚されている。

 「あとがき」には、「病院というところは複雑な組織である。かつてピーター・ドラッカーは『病院を経営できる者はどんな会社でも経営できる』と発言したが、まさにその通りである」と述懐されている。

 さりげない絶筆でありながら、ここには寝食を忘れ、生涯をかけて医療改革に取り組んでこられた真摯な生きざまが偲ばれ、改めて頭が下がる思いである。

評者・医療経済研究機構専務理事 岡部陽二

(2009年7月6日,㈱法研発行「週刊・社会保障」7月6日号、第63巻2537号 p26 所収)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント

※コメントは表示されません。

コメント:

ページトップへ戻る