この「COMET」誌で毎号広告をお見掛けするシュプリンガー・フェアラーク東京より、このほど私が監訳しました「医療サービス市場の勝者」を出版して頂きました。この本はどなたにもご理解頂けるノン・フィクション風の読み物であって、決して堅い専門書ではありません。ところが、医療経営といった分野は何となく馴染みが薄く、一般人には関係がないといった誤った先入観から出版を引受けてくれる大手の出版社はありませんでした。本書に限らず真の良書は売れないから出版しないという大手出版業者の昨今の風潮は嘆かわしい限りです。
そこではたと思い当たったのが、COMET誌で拝見しましたシュプリンガー・フェアラーク東京社長・平野皓正さんのエッセーと広告でした。そこで、この本の翻訳出版を頼み込んだところ、二つ返事で即座に引受けてくれ、素晴らしく有能な共訳者の紹介までして頂きました。彼とは同期で二人とも銀行に就職、その後はすれ違いばかりで卒業以来会う機会がありませんでしたが、すぐに意気投合しました。彼もいまだに学生気分で、3年前のCOMETでは「本当の英語力とは何か」を論じていました。昨年のエッセーは何と「A friend in need is a friend indeed」という題の寄稿でした。彼の存在はまさに私のニーズにぴったりで、今更ながらESSでの繋がりに感謝しております。
本書の著者は製造業やサービス業一般の経営戦略を、米国の医療サービス業界へも導入して、脂肪を筋肉質に変えるリサイジングと的を絞り込んだ医療フォーカスド・ファクトリーを実現すべきと提唱しております。一方、1990年代を通じて米国での医療改革の主流となっている出し渋りを旨とするマネジドケアの手法には極めて批判的で、マネジドケアの考え方自体を切捨てご免で、「とにかくノーというダイエット」として否定しています。最終的に誰が医療サービス市場の勝者となり、敗者となるのか。その鍵を握っているのは政府でもなく、医療保険でもない。消費者(患者)と医療機関とで成立っている市場の機能が生かせるか否かであるといった明快な論旨の展開です。
著者の主張は米国政府の施策にも反映され始めて、原著は専門書としては例を見ない7万部を超えるベストセラーとして洛陽の紙価を高めております。医療サービスも市場原理をフルに活用して効率化を図れば他のサービス業と何ら異なるところはないとする本書の基本的な考え方は、わが国の医療改革や消費者の意識改革に向けての貴重な指針となります。皆様方も、とにかく一冊お買い求め頂いて、ご感想をお寄せ下さい。
(広島国際大学医療福祉学部教授 岡部陽二、昭和32年、法学部卒)
(2000年5月17日付け、京大ESS・OB誌"Comet"所収)