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日本医師会「日医ニュース」書評「医療サービス市場の勝者」

                           
 
著者は製造業やサービス業一般の経営戦略を、米国の医療サービス業界へも導入して、脂肪を筋肉質に変えるリサイジングと的を絞り込んだ医療フォーカスド・ファクトリーを実現すべきと提唱している。一方、1990年代を通じて米国での医療改革の主流となっている出し渋りを旨とするマネジドケアの手法には極めて批判的で、マネジドケアの考え方自体を切捨てご免で、「とにかくノーというダイエット」として否定している。ただし、本書は病院経営を論じた堅苦しい専門書ではなく、ノンフィクション風の極めて読み易い作品となっている。

 最終的に誰が医療サービス市場の勝者となり、敗者となるのか。その鍵を握っているのは政府でもなく、医療保険でもない。消費者(患者)と医療機関とで成立っている市場の機能が生かせるか否かである。ところが、米国においては、この市場が医師ではない管理テクノクラートによって著しく歪められている。今こそ、医師がベンチャー精神をもって市場改革に取組み、医療サービスを効率的で無駄のない事業に変革すべきと著者は熱っぽく医師の奮起を促している。

 著者の主張は政府の施策にも反映され始め、本書は全米医療経営者協会から最優秀書籍賞を贈られている。その結果、原著は専門書としては例を見ない7万部を超えるベストセラーとして洛陽の紙価を高め、ペーパーバックにもなって引続き販売部数を伸ばしている。 

 わが国でも昨今、医療制度改革の柱として米国流のこのマネジドケアを採り入れるべきとの主張と、逆に米国流のやり方はわが国にはそぐわないとの考え方が論議され始めたところである。この是非を論ずるにあたっても、医療サービスも市場原理をフルに活用して効率化を図れば他のサービス業と何ら異なるところはないとする本書の基本的な考え方は、貴重な指針となろう。

(著者はハーバード大学経営大学院教授、監訳者、岡部陽二広島国際大学教授、訳者、竹田悦子、定価;2,500円+ 税、発行、シュプリンガー・フェアラーク東京  ℡ 03-3812-0757)

(2000年6月5日付け日本医師会機関紙「日医ニュース」No.930p7書評欄所収)

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