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<書評>医療施設経営ハンドブック ~院長・理事長のための経営読本~


 「院長・理事長のための経営読本」と副題にある通り、これまでになくユニークで内容の充実した、まさに病院経営者のための総合的な経営指南書に仕上がっている。医療経営に関する実務書の多くは、いかにすれば医業収入を増やし、経費を節減して経営効率を上げることができるかといった技術論やマーケティング手法の解説が主体となっているが、本書は医療経営の理念から説きおこして、経営戦略の立て方、それを実行する組織やマネジメントの在り方が分かりやすく、噛んで含めるように具体的に述べられている。

 さらに、病院が直面している経営改善策として①顧客満足度の向上、外部評価の導入、②専門分野への特化、③施設間の連携・共同利用、④地域との連携方策、⑤複合化の展開・病床削減、⑥意思決定マネジメントの六つの実践テーマに亙って、先進事例などを示しながら懇切に解説されている。

 本書は武蔵野大学現代社会学部教授兼岡山大学大学院医歯学総合研究所客員教授の西田在賢教授を研究班長として、同教授のご指導のもとにUFJ総合研究所の野口正人保険・医療・福祉政策室長以下の研究スタッフが中心となってとりまとめられた調査研究報告をもとに構成されている。もっとも、解説コラムを加えるなど読み易くする工夫が随所に凝らされており、報告書といった堅さは見られない。この調査研究自体は、平成11年度から厚生労働省の支援で進められている「医療施設経営安定化推進事業」の一環として平成13年度に行われたものである。

 本書の冒頭にもあるように、「医療経営は厳しい時代を迎えつつあるといった言葉は言い古された感がある」が、それにしては病院経営の実態は旧態依然としている。たとえば、9時かっきりにはすべての診療科で外来診療が開始されている病院がどれほどあろうか。もちろん、医師は急患や入院患者も看ており、決して怠けているわけではなかろうが、外来を業とする以上は診察開始時間の厳守は必須である。開店時に従業員が来ていないといったことは同じサービス業である百貨店や銀行では考えられない事態である。これを正すために、院長が毎朝8時半にロビーに立つといった率先垂範戦略をとっている病院もある。これは、ショック療法としては意味もあろうが、トップのカリスマ性に依存した経営は必ずしも長期的には成功しない。やはり、本書でも繰り返し説かれているように、医師を含む全従業員に理念を明確に示して、患者の視点に立つという意識を徹底させ、全員納得づくのうえでの継続性のある経営体制を構築しなければならない。
 
 病院経営の難しさの一つは、医療の専門性に根ざすもので、しばしば診療科単位での意見調整や人材育成には問題があり、ましてや複数の診療科を横断した意思決定や評価システムの導入は無理との声も聞かれる。それを是認するのであれば、専門分野別に分離独立させるべきであろう。一つの経営体として運営する以上は、経営全般の方針がまずあって、それにしたがって各科の向かう方向性が打ち出されるべきである。病院が持っている経営資源をフルに活用して、病院をとりまく環境にも適応していく道筋を示すことが、とりもなおさず「戦略」である。本書には、その道筋の立て方が具体例をもって明確に示されている。

 第三部では、北海道から福岡まで12の病院の経営改善実績が事例研究として紹介されている。病床区分の明確化により、病床規模200床前後を境にして、大型の急性期専門病院と療養型病院とに分かれるとの見方が流布されている。ところが、ここで取り上げられた病院はすべて100床前後の中小病院でありながら、専門特化によるフォーカスト・ファクトリーを志向したことによって、急性期病院として十分に機能し、生き残っていけるという見事な実例が示されているのは驚きである。本書の指針が実行に移されて、患者の利益にも繋がるこのような病院が一つでも増えることを期待してやまない。

(厚生労働省・医療施設安定化推進事業、医療施設経営ハンドブック ~院長・理事長のための経営読本~(日経BP出版センター・定価5,400円)、評者;広島国際大学医療福祉学部 教授 岡部陽二)

(2003年4月1日、社会保険研究所発行「社会保険旬報」No.2167、p31所収)

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