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<書評>埼玉県病院事業管理者 武弘道 著 こうしたら病院はよくなった!-Hospital Reformation

 埼玉県立四病院は、平成13年に武弘道先生が「病院事業管理者(企業で言えば、最高経営責任者、CEO」に就任されてから三年間で、累計57億円の収支改善を成し遂げている。その結果、平成12年には年間115億円の県からの繰入金(財政支援)があったものを、毎年10億円ずつ減らしたうえに、累積欠損が一左掃され、その後も同じペースで経営改善が進んでいる。

 武先生は前任の鹿児島市立病院の病院事業管理者として八年間勤められ、救命救急や大規模な高度小児医療といった不採算部門を抱えながらも市からの繰入金なしでもほぼ収支均衡するという素晴らしい効率経営を実現されている。この手腕を評価されて、当時の埼玉県知事から三顧の礼をもって招聘された成果が、僅か三年間ではっきりと示された。三年間で30億円改善するという就任前の約束のほぼ二倍の実績が上がったのである。

 このサクセス・ストーリーが軽妙な筆致で誰にも分かるような易しい表現で語られているのが、本書「こうしたら病院はよくなった!」である。通常、このような収支改善の断行は「リストラ」と呼ばれ、人員削減と給与カットがその常套手段である。ましてや、人件費が総経費の六割近くを占める病院経営においては、誰しもまず人件費の圧縮から手をつけるのが、むしろ常識であろう。

 ところが、武先生はこの収支改善を一人の首切りも給与カットも行なわずに、医業収入を増やす方策と物件費の切り詰めで、拡大均衡を図りながら達成されているのである。しかも、この間に米国で実績を積まれた精神科医を院長に採用したり、高額の医療機器を積極的に導入したりしている。医療の質を上げるための果敢な前向き投資で、患者数の増加が実現したのである。

 まさに魔法の杖のようなこの荒業を、武先生は「やればやれるのである」とさらりと語っておられるが、本書を読めば、20年以上の長期にわたる情報収集とそれの綿密な分析に基づいて経営戦略が練り上げられ、それを卓越したマネジメント能力でもって医師はもとよりスタッフ全員に徹底してこられた行動力の賜物であることがよく分かる。

 全国にある1077の自治体病院の大多数が昭和40年以前に開設され、その後のモータリゼーションに対応していない。その結果として、諸々の弊害が出ている。たとえば、ただでさえ手狭な駐車場を患者後回しで病院のスタッフが優先使用している。これを改善すべく、武先生は車通勤の全職員に10分以上離れた有料駐車場の使用を義務付けられている。

 このような改革を一歩一歩進めて、経営の改革を実現するには、武先生が本書で提言されている、①医療現場に通暁したプロに病院事業管理者を委嘱し、自治体病院の経営に関する諸権限をすべて賦与する、②看護師を副院長に登用し、経営に参画させる、③医師の採用と評価を厳格にし、「県民の方を向いた医療」に徹するよい医師を集める、これに尽きるのではなかろうか。

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 (2005年3月発行、医療経済研究機構レター”Monthly IHEP”No.129 p24 所収)

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