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<書評・この一冊>「FDAの正体」上・下2巻~レギュラトリー・サイエンスの政治学・社会学

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書評<この一冊>

「FDAの正体」上・下2巻~レギュラトリー・サイエンスの政治学・社会学

フラン・ホーソン著、栗原千絵子・斉尾武郎 共監訳

 

評者;医療経済研究機構副所長 岡部陽二

 

  198810月に1千人を超えるエイズ患者やサポ-ター達が全米各地からロックビルにあるFDA(米国食品医薬品局)の本社ビルに押しかけ、抗議の罵声を浴びせた。抗議の内容は薬害への抗議ではなく、「FDA1981年に流行が始まったエイズの治療薬開発に不熱心で同性愛患者などに冷淡である、これはけしからん」という批判であった。

  製薬会社は当初、治療が難しく、患者数も少ないエイズ治療薬の開発に巨額の費用を掛けるのに乗り気ではなく、ようやく1985年にバローズ・ウエルカム社がAZTと言う新薬の開発に着手し、FDAも並行して承認審査のプロセスを開始、第Ⅲ相の臨床試験は省略して、1987年にこの新薬をスピード承認した。FDAは通常67年を要する審査期間を短縮して患者のために親身になって対応しており、遅延を非難するとすれば、その鉾先は新薬開発に及び腰であった製薬会社に向けられるべきであった。

  ところが、米国民はそうは思っていない。「FDAはその気さえあれば、規制当局としての権威にものを言わせて、製薬会社に研究・開発をさせることができたはず」と、彼らは信じ込んでいるのである。

  一方、FDAが許可した新薬が消費者の死を招いた事件も多発している。米国経済の3割を規制して米国民の安全を一手に担っているFDAは、100年の歴史を有し、1万人を超える職員を擁する巨大組織であるが、世論や政争にも巻き込まれて、常に論争の渦中にある。

  「インスティテューショナル・インヴェスター」誌の上級編集者であったフラン・ホーソン女史は、新薬を求める難病患者と薬による被害を訴える被害者との狭間にあって、「科学」と「信頼性」の名のもとに理論武装するFDAの実態を、関係者との数多のインタビューを通じて、鮮やかな筆致でヴィヴィッドに描き出している。

  評者はこれまでFDAの厳しい規制当局としての姿勢しか知らなかったが、新製品開発のアイディアの段階から研究者やメーカーの相談に乗って、ともに優れた製品を早く完成させようとするFDAの対応が、本書には数多く紹介されている。

  わが国では、大学病院での研究を製薬会社が製品化する際には、すでに大学で行なわれた治験をメーカー側でも重ねて行なう要があり、これが創薬の開発期間を5年程度長引かせてきた。この不合理を改める動きが成長戦略の一つとして提案されている。

  人が犯す過誤には、「すぐに飛びつき過ぎ」と「手をこまねき過ぎ」の二つがある。FDAPMDAといった規制当局が、便益向上に向けた開発促進と安全性に重点を置いた規制強化とのバランスをどうとっていくかは、もっとも悩ましい永遠の課題であるが、この問題に真正面から前向きに取り組んでいるFDAの姿には学ぶべきところが多い。 

■篠原出版新社刊、定価;本体2,800円+税(上下巻共) 

201348日、㈱法研発行「週刊社会保障」第67巻第2722号、p42所収) 

 

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