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銀証業務の真の一体化へ向けて  岡部陽二

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銀証業務の真の一体化に向けて

 銀行による証券会社の設立が認められ、銀証の連携が始まって以来、2023年7月で30年を経た。最近に至り、メガ・バンクの証券子会社はようやく大手証券と肩を並べて業績を競うようになってきた。いっぽう、2010年には大和証券が大和ネクスト銀行を設立、2021年にはSBI証券が新生銀行を買収して子会社化している。

 しかしながら、銀証の相互乗り入れは、日本では欧米諸国と異なって本体での併営はできず、「持ち株会社方式」でしか認められていない。銀行が証券業を併営し、証券が銀行免許を取得する方式でのユニバーサル体制での一体化は実現していない。この持ち株会社方式による銀証の相互乗り入れには無理があり、非効率この上ないうえに、肝心の個人顧客にとっても極めて使い勝手が悪い。

 この原因は、金融規制のあり方が、日本と欧米諸国の間では、根本的に異なっている不都合に由来する。欧米では銀行業、証券業といった「業務」を対象として取引主体が誰であるかは問わずに規制が行なわれているのに対し、日本では銀行、証券会社といった「金融機関」種別を対象に業態別に規制がなされている。金融機関ごとの業態別規制では、顧客の利便性は重視されないのが、大問題である。

 日本では、同じ銀行の中でも、普通銀行と信託銀行、長期融資と短期融資、外為専門銀行など業態別に、いわゆる「業法」でもって規制が行われてきた。これらの業態別の規制は金融危機を経て順次廃止されたが、銀行と証券には依然として「金融機関」別の業態規制が温存されている。


銀証一体化は茨の道

 筆者は、国内での銀証連携実現の20年前に遡る1973年に、ユーロ証券市場に限って銀行の証券業務が認められるようになった時から92年に退職するまで、銀行マンでありながら、証券業務に深くかかわってきた。

 1973年には、欧米の投資銀行やマーチャント・バンクとの対等合弁を条件として邦銀の証券現地法人設立が可能となり、住友銀行は米国のホワイト・ウェルド社と合弁でロンドンに住友ホワイト・ウェルドを設立した。筆者は、その開設準備や顧客獲得に奔走し、1976年8月には同社の2代目社長に就任した。翌年には住友銀行の出資比率を引き上げて「住友ファイナンス・インターナショナル(SFI)」に変更した。

 SFIで行う証券業務の柱の一つは、日本企業が発行するユーロ債引き受け幹事業務であったが、この業務が大きな壁にぶつかった。大手証券が旧大蔵省に働きかけて、「株式が絡むユーロ市場やスイス市場での転換社債発行の主幹事は証券会社の欧州現法に限り、銀行系の証券現法には務めさせない」という証券局、銀行局、国際金融局間のいわゆる「三局合意」なるものを作らせたのである。このように手足を縛られた銀行系現法が証券会社と対等に戦うのは不可能であった。

 もう一つの理不尽な規制は「SFIのような銀行系欧州証券現法が日本国内で行う引受幹事獲得などの営業活動を銀行の国内支店に手伝ってもらってはいけない」というファイア・ウオール規制であった。それでは、ロンドンから頻繁に日本へ出張するのは大変なので、SFIの東京駐在員事務所を認めてほしいと旧大蔵省に申し出でたが、それも認められなかった。当時から外国の金融機関は届け出だけで駐在員事務所を開設できることになっていたにもかかわらず、「邦銀現法からの届け出は受理しない」という行政措置があるとして、撥ねつけられた。

 当時は、米国でもグラス・スティーガル法によって、J・P・モルガン銀行のような米銀は米国内での証券引き受けはできなかったものの、ユーロ市場においては、米国企業の起債主幹事などをすべての証券業務を自由に行なっていた。

 しかも、邦銀と米銀の大きな違いは、米銀の欧州現地法人は一社で銀行業務も証券業務もできるのに対し、邦銀には別法人の設立が強制されていた点であった。日本国内での銀証分離の業態別規制が、ユニバーサル金融が原則の外国での業務にまで拡大適用されるというのは、どう考えてもおかしい。このような日本のみに通用する銀証別会社方式の弊害は、幾分緩和されたとはいえ、いまだに続いている。

 欧米では「郷に入っては郷に従え」が国際金融慣行の原則となっている以上、日本もこれに合わせなければならない。このようにガラパゴス化した国際的には通用しない国内規制に縛られて、銀行と証券が内部抗争を続けていては、何時まで経っても、日本の金融機関の国際競争力は強くならない。


別会社方式の銀証連携は、個人投資家にとって、不便極まりない

 持ち株会社方式での銀証連携は、顧客の利便性を著しく損なっている。問題はいくつもあるが、身近な問題点一つに絞って例示したい。

 筆者はごく最近、三井住友銀行吉祥寺支店に保有していた外貨預金5万ドルを、米国債購入の目的で同行持ち株会社100%保有のSMBC日興証券吉祥寺支店へネットバンキングで送金を依頼した。ところが、この送金に何と足掛け2か月を要したのである。マネー・ロンダリング対策で、個人の外国送金は1回3百万円相当額まで、月間5百万円までと規制されているからである。銀行の店頭へ出向けば、外貨送金依頼書に膨大な記入を要求され、1時間くらい掛かる。同一系列間の送金手数料は免除されているものの、SMBC日興証券ではなく、みずほ証券へ送金する場合には、1件3千円で、計9千円の手数料をとられる。

 同一系列であっても別会社である以上、国内金融機関間であっても外貨送金にはスイフトを通さざるを得ないという外貨決済システムにも問題があるが、証券会社が銀行免許を得れば、送金の必要はなくなり、この問題は解決できる。個人取引の利便性を考慮して、銀行免許を証券会社に与えていただきたい。


ユニバーサル・バンキングが普遍的な国際ルール

 日本が金融機関間の相互乗り入れ自由化に踏み切った90年台前半には、全面的に業態別別会社方式が採用されたが、その後の規制緩和で2004年以降「信託業務」については、どの金融機関でも信託業の免許を取得すれば本体で展開することが可能となっている。「銀行業務」と「証券業務」だけが、本体での併営が認められず、別会社方式が続けられているのは、解せない。

 かたや、米国のネット証券最大手のチャールズ・シュワッブは株式売買手数料の無料化の先鞭をつけたが、無料化による減収は併営している銀行の預金運用益で十分にカバーしている。

 日本でも、大和証券が別会社で保有している大和ネクスト銀行を、SBI証券がSBI新生銀行を本体に吸収合併すれば、証券会社にとっても業務の効率化が進み、顧客の利便性も格段に改善されるのは間違いない。

 欧州ではすべて一つの金融機関が銀行と証券を併営するユニバーサル・バンク方式が原則である。米国でも、1999年に制定されたグラム・リーチ・ブライリー法により、1933年来のグラス・スティーガル法による銀証分離は廃止され、欧州並みとなった。

 もっとも、ゴールドマン・サックスなどの大手投資銀行は、「銀行」と称しながらも、銀行免許を持っていなかったが、2008年のリーマン・ショック時に銀行持株会社に転換することで、連銀からの資金注入を得て救済された。このゴールドマン・サックスの日本法人も2021年に日本で銀行免許を取得し、証券以外の金融分野への多角化を目指している。

 銀行業務と証券業務を同一法人で行うことの問題は「融資と絡めて引受主幹事を狙う」といった利益相反にある。ユニバーサル・バンキングが原則のドイツなどでは、これを管理して弊害とならないように運営する管理方式が有効に機能してきた。

 この利益相反を管理しきれるかどうか、金融機関にも規制当局にも、その自覚と自信が欠けているところに日本独自の問題が潜んでいるように思える。このような状況下で、日本の銀行・証券だけが業態別縦割り別会社方式に固執する政府の指導で日本の金融界がガラパゴス化している弊害は看過できない。

(元住友銀行専務取締役、元明光証券会長、元広島国際大学教授)

(2024年5月23日発行、東証ペンクラブ「ペン 2024 令和六年」号、p60~64所収)


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