「米国証券調査団報告書」はしがき
「十三会米国証券市場調査団」一行15名はl1月19日に成田空港を出発、ニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコの3都市にて米国の大手・中堅証券会杜8杜、取引所2ヶ所の訪問を中心に計17回の会合・視察を順調に消化して、l1月28日に帰国した。
本調査団の目的は1975年のメーデー以降大きく変容した米国証券業界、とりわけリテール・ビジネスの実態を具に見聞し、「日本版ビッグバン」に直面しているわれわれ中小証券経営の指針・参考となる情報を幅広く収集することにあった。
この目的は訪問先各社にて活発な質問を行い、各杜首脳と親しく懇談する機会を得、さらには貴重な情報・資料の提供を受けることが出来たので、当初の期待以上に十二分に達成されたものと考えている。
これは偏に周到綿密な事前準備、日程調整、訪問先との折衝などを精力的に行っていただいた山一証券(株)業務部・企画室、山一インターナショナル(アメリカ)社、山一証券経済研究所関係者各位の献身的なご協力に支えられた賜物であり、参加者一同衷心より感謝の念で一杯である。
ところで、米国経済は絶頂期にあり、われわれがニューヨーク証券取引所を見学中にもNYダウが6,500ドルを超えて市場最高値を更新していたのは、印象的であった。さらに取引所からの説明で、立会時間(現行、昼休みなく通しで午前9時半から午後4時まで)を近々5時間延長するとの計画が披露されたのには驚かされた。市場は直接参加者だけのものではなく、国民共有の運用・調達の場であり、国外からの利用者にも開放すべしとの意識の高さに感銘を受けた次第である。
証券会杜のリテール営業面では、フル・サービスからオン・ライン取引専門まで多岐にわたる業態の存在、他杜に追随しないでむしろ逆を行くといった経営マインド、長期的な個人資産形成の観点からの運用管理業務への取り組みなどが、注目されるところであった。
米国でも業者間の競争は激しく、露骨な比較広告や他社外務員の引き抜きも日常茶飯事である。また、何事につけてもランク付けが盛んで、厳しい評価に晒されているが、リサーチ情報の提供など付加価値サービスに対する正当な対価は頂戴する、顧客の側にもこのような対価の支払いは厭わないといった意識が徹底しているのは、羨ましい限りであった。
米国の業界慣行はわが国の実情とは余りにも懸け離れていて、今直ちに取り入れることが出来る点を探すのは難しいものの、将来を展望した場合には見習うべき点がこれまたきわめて多いことを痛感した次第である。
平成8年12月10日
十三会米国証券市場調査団団長
明光証券(株)会長 岡部陽二
(1997年3月、山一証券㈱発行、「十三会米国証券調査団報告書」所収)
「米国証券調査団報告書」の目次などと「1、米国証券業をめぐる状況」p1~8のみのPDFファイルを添付します。
<追記;2014年6月8日付け日本経済新聞朝刊「日曜に考える」のインタビューで紹介されました石井茂氏の記事です。石井氏はこの記事にもありますように、十三会(とさんかい)調査団の幹事を勤められました。>