抜本的税制改正に向けていよいよ本格的な論議が始まろうとしている。税制の基本原則は負担の公平・平等ということであろうが、直間比率の見直しをはじめ、国民経済の動きに合わせた合理的・効率的な賦課方式が常に求められなければならない。とりわけ、証券市場において現下の要請は「市場の活性化」という命題に尽きるので、この観点からの再検討が望まれる。
ところで、現行証券税制には不合理な点が多々目につく。たとえば、
①企業が法人税を払った残余の利益から配分きれる配当に更に所得税が課せられる、
②キャピタルゲイン税導入後も、その代替策である有価証券取引税が廃止きれていない、
③過去3年半、個人投資家がキャピタルロスで苦しんでいるのに、キャピタルロス分の税還付はなく、キャピタルゲインの有無とは無関係に常にキャピタルゲイン税が賦課されている、等々である。
しかも、公共財といわれるほど国民経済的に重要な役割を担う証券市場の活性化が叫ばれて久しいが、現実にはいくつかの対策が実施されてきただけで抜本策は打たれないままである。今や税制を景気の回復を図るための有力な手段であると改めて認識し、次のような税制改正が検討されて然るべきであろう。
第1はキャピタルゲイン税1%、有価証券取引税0.3%をともに撤廃することである。キャピタルゲインが総合課税の米国でも、株価はそもそも法人税支払後の内部留保蓄積により上昇するものであるとして、キャピタルゲインについても配当所得同様に二重課税すべきではないとの考え方がある。
第2は社会問題化している相続税緩和のため、株式資産の相続に対し税制上の恩典(たとえば、相続税算定に当たり株式資産の掛目を70%と設定)を与えることである。
第3は個人の株式投資を税制上優遇することである。高齢化社会の到来に備えて個人の自助努力による私的年金も育成する必要があり、長期投資に最も相応しい株式の保有を支援することが肝要である。
このような抜本策を実施すれば、「証券市場の活性化」は一気に実現しよう。そうなれば、
①逆資産効果で抑制されてきた個人消費が再び活発化する、
②合理化を進めている企業が売り上げ増により前向きの設備投資に転じる、
③不況で歳入欠陥に陥った国家財政にとって証券税制の減税分を上回る歳入増が期待できる等、多くの成果が見込まれ、正に一石三鳥の景気対策となろう。
今や二番底に落ち込む寸前の景気を回復させるには、所得税減税を含むあらゆる手立てを尽くす必要があり、証券税制の抜本見直しはその核ともなるべき最重要施策の一つと確信している。生活者の観点に立ち国民生活の向上を政策目標に掲げる細川政権の勇断に期待するところ大である。
(明光証券株式会社 代表取蹄役会長 岡部陽二)
(1993年10月発行「明光レポート」第61号所収)