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個人株式投資奨励のための証券税制改革提言(2001年8月4日)

  参院選で大勝した与党3党は企業間の持合い解消やITバブル崩壊に端を発した株価低迷対策として、株式譲渡益課税などの証券税制改革案を早急に詰めて、今秋の臨時国会で必要な法改正を行う方向で調整を進めている。この改革案の骨子8項目はすでに本年3月に与党3党間で合意に達している

 また、先行き不安に根ざしている現下の株式市場活性化策として、場当たり的な対策はむしろ逆効果であり、中長期的視野に立脚した抜本的な構造改革に踏切るべきであるとの方向で大方の識者の意見は一致している。

 さらには、過去10年、日本株を買越したのは外国人であり、日本人投資家は売手に廻ったという現実を踏まえ、国内の個人投資家も魅力を感じて積極的に参加できるような資本市場に作り替える政策の必要性が痛感されている。

 この方向での改革案検討に当って最も重要なポイントは、将来株式市場の主役となるべき個人投資家が株式を真に魅力ある投資対象と考えるにはどのような政策手段がもっとも有効であるかという視点である。

 この観点からの個人の株式投資奨励に向けての構造改革として、(1)株式譲渡益課税制度の整備と、(2)個人株主優遇税制の創設に絞って、必要な法律改正の早期実現を切に要望したい。

(1)株式譲渡益課税制度の整備

 与党3党の合意を列挙すると、申告分離における株式譲渡益課税について①株式譲渡益に対する申告分離課税の税率を20%程度(現行26%)に引下げる、②損失が出た場合の5年程度の繰越控除制度を新設する、③1年以上保有している株式を売却して得た譲渡益については税率を1/2に軽減する、④年間100万円から200万円程度の譲渡益については非課税とするとなっている。

 譲渡益課税以外については、⑤個人に対する配当課税の1/2程度への軽減、⑥少額配当申告不要制度の限度額の20万円程度(現行10万円)への引上げ、⑦株式による相続税・贈与税の軽減、⑧法人に対する配当二重課税の排除が挙げられている。

 上記8項目のうち、個人の申告分離における株式譲渡益についての4項目は最低限でも上記原案どおりの実現を強く望みたい。もっとも、②の損失繰延べについては期間を5年間に限定するのではなく、無期限繰延べを認めるべきであり、さらには通常(勤労)所得との損益通算を認めるべきである。

 キャピタル・ゲインの無期限繰延べは米・英・独で認められており、通常所得との損益通算も米・独で認められている(ただし、独では長期保有については原則譲渡益非課税)。この際、株式投資のリスクに配慮して、少しでもグローバル・スタンダードに近づけることが肝要である。

(2)「個人株式投資優遇税制」の新設

 本年4月に申告分離制に一本化されることとなっていた株式譲渡益課税は一本化を取止めて、向こう2年間現行通りの源泉分離制との選択税制が存続する方向で決着をみている。しかしながら、個人投資家の将来不安を解消するには、早急に2年後の譲渡益税制のあり方を明確に示す必要がある。

 具体的には、上記4項目の改正を織込んだ申告分離制度に一本化して源泉分離課税制度を廃止すると同時に、個人の小口株式投資について一個人の株式および株式投信への年間投資額100万円を限度として、配当課税、譲渡益課税を一切免除する「個人株式投資優遇税制」を新設すべきである。

 この税制は1987年にサッチャー政権下の英国で導入され、この制度を利用した累積投資可能額が1999年には一人1,600万円に達し、1,000万人の個人投資家を新規に創出した実績を持つ英国の「Personal Equity Plan」制度に倣ったものである。

 資本市場の活性化には、新規の小口投資家を株式市場に呼び込むことが何にもまして重要である。幅広い個人株式投資家を創出するには、将来の株式市場の担い手を1,300兆円もの金融資産を有している個人大衆に託するという政府からの確たるメーセージの発信が不可欠である。

以上

(岡部陽二、2001年8月4日、日本個人投資家協会の依頼に基づき関係筋への提言として取り纏めたもの)

 

 

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