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米で注目「病院の専門施設化」 ~提唱本監訳の岡部・広島国際大教授に聞く

 
 診療科目を得意分野に絞り込んで、特定の患者のニーズにこたえる「病院の専門施設化」を提唱した本が、アメリカで注目を集めている。レジナ・ヘルツリンガー著「医療サービス市場の勝者」。監訳した広島国際大医療福祉学部の岡部陽二教授(国際経営論)は「日本でも参考になる点が多い」と話す。(長富健三)                                                                 

 著者はハーバード大経営大学院の女性教授。自動車メーカーやハンバーガーチェーンと病院のやり方を比較し、病院はもっとフォーカスト・フアクトリー(焦点絞り込み工場)の考え方を採り入れるべきと唱えた。本は、一般向け医療問題部門のベストセラーとなっている。

 米国では、健康志向の高まりを受けてとりわけキャリアウーマンから「診察まで待たされたくない」「もっと専門的なサービスを受けたい」など、よりレベルの高い要望が出ている。しかし現実には、病院は患者のきめ細かいニーズにこたえられていない。

 フォーカスト・ファクトリーの底にあるのは、患者の求めるレベルに応じるために、総合病院より専門施設を、いわばデパートより専門店を目指そうという考え方。例えば、がんでもさらに特定の分野に特化したり、商店街の真ん中でプライマリーケアや定期健診を柱とする医院を開いたりするケースなどが考えられる。

 医師は、同じ症例の手術を繰り返すことによって腕が上がるし、同僚と共通の研究課題を持つことで、情報交換も容易になる。来院する患者の不安も似ているため、看護婦やカウンセラーの対応も手慣れてくる。そうしたことが複合して、患者の満足度が高くなるという。

 米国の医療の多くは慈善団体や公共団体に担われ、奉仕的な発想が強く、さまざまな不合理がある。そこへ市揚原理を導入する考えは日本でも学ぶ点が多い、と岡部教授はみる。「医療はもっと、サービス面で競争していい。コンビニに客が集まる意味を考えるべきだ」と監訳に取り組んだ。

 日本にそのまま当てはまる指摘もある。総合病院がめったに使わないのに購入している高価な医療機器。ある分野に特化して、使う回数を増やせば、採算が合いやすい。

 たとえば、核磁気共鳴診断装置(MRl)は、米国3,500台に対し、日本は3,000台。CTスキャンに至っては、米国の6,000台を上回る10,000台もある(1997年のデータ)。                                                                                                                                                                                       

 「もっと有効に活用できないのだろうか」と疑問を呈す。

 岡部教授は「著者は、医師のベンチャー精神を奮い立たせようとしている。議論の材料になれば」と話している。同書はシュプリンガー・フェアラーク東京刊、2,500円。

(2000年11月26日付け「中国新聞」12頁「くらし」欄所収)

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