話し手:日本ジェネリック製薬協会 理事長 長野健一氏 聞き手:医療経済研究機構 専務理事 岡部 陽二
今回は、日本ジェネリック製薬協会(JGA)理事長の長野健一氏に、ジェネリック医薬品への信頼性向上に向けての取組みについてお伺いしました。
ジェネリック医薬品(後発医薬品)は、先発医薬品と治療学的に同等であるものとして製造販売が承認され、開発費用や販売管理費用が安く抑えられていることから、先発医薬品に比べて薬価が低くなっています。
このため、政府はジェネリック薬の普及が、患者負担の軽減、医療保険財政の改善に資するものとして、昨年6月の閣議決定により、ジェネリックの数量シェアを2012年度までに現状のほぼ2倍の30%以上に引上げるという目標を掲げ、本年4月の診療報酬改定でも、新たなジェネリック使用促進策を打ち出して、その普及啓発に努めています。
しかしながら、本年9月時点での日本保険薬局協会の調査では、「薬局が受け付けた処方箋のうち、後発品に変更可能な処方箋は全体の57%と少なく、診療報酬改定にもかかわらず、後発品使用は順調には進んでいない」と指摘されています。これには、さまざまな要因が絡んでいるものの、その一つに医師・薬剤師などの医療関係者の間にジェネリック薬の品質や情報提供、安定供給に対する不安が依然として根強く存在していることが挙げられています。
その不安の根拠についてのJGAのご見解を質し、ジェネリック薬普及に向けての改善策を中心にご意見を開陳いただきました。
長野健一理事長は、日本香料工業会安全性部会長を経て、昨年7月に日本ジェネリック製薬協会の前身である医薬工業協議会に新設された理事長職に就任されました。爾来、ジェネリック医薬品の信頼性向上と普及啓発活動に精力的に取組んでおられます。
〇日本ジェネリック製薬協会の役割と使命
岡部 日本ジェネリック製薬協会(Japan Generic Medicines Association、 JGA)は1965年に「医薬工業協議会」として出発し、本年4月にJGAに改名されました。その狙いは、この協会がジェネリックメーカーの団体であることを明確にし、ジェネリック薬を国民に広く認知してもらうための普及啓発活動の強化にあるものと承っていますが、JGAの組織、目的、事業内容などについて具体的にお聞かせ下さい。
長野 以前の「医薬工業協議会」という名称では、一般の方には、団体の性格がよく分かりません。そこで、それを明確にさせようと考え、しかも「ジェネリック」という呼び方もここまで普及してきたので、昨年(平成20年)の4月に名称を「日本ジェネリック製薬協会」と変えさせていただいたものです。
岡部 名称の変更だけではなくて、その前に、協会の機構というか組織を大幅に強化されたものと伺っていますが。
長野 大幅強化でもないのですが、事務局の専従者を一名増やして、5人にしました。それは、International Generic Pharmaceutical Alliance(IGPA)というジェネリック医薬品の国際組織に、今まではオブザーバーで参加していたのですが、2008年12月にジュネーブで開催された年次総会から正会員となり、国際部長を置く必要に迫られたものです。
岡部 JGAがIGPAの正会員なられたのは、遅きに失した感じですが、早速、議長の大役は大変ですね。
長野 いや、IGPA自体、1997年に EGA (欧州各国のジェネリック協会)を中心に CGPA (カナダ), GPhA (米国), IPA (インド) の4団体が連合してできた比較的新しい団体で、2005年からJGAもオブザーバーで参加していました。今年からは、正会員となった次第です。今後は、アジア地域では台湾もオブザーバーになる見込みです。IGPAは、各国の協会の協会というAllianceであって、メーカーなどが個社で加入する組織ではありません。ですから、日本でいえば、日薬連みたいなものです。
岡部 将来、ジェネリックの生産国だけではなく、消費国のアフリカ諸国などが入ってくると急拡大しますね。
長野 そうでしょうね。ヨルダンや南アフリカもオブザーバーとしての加入を希望しています。
〇日本ジェネリック製薬協会の構成と運営方式
岡部 JGAの会員構成、販売高規模および経営体質などの点でどういう特色や課題があるのか、お聞かせ下さい。
長野 JGAの正会員は、後発医薬品の製造販売会社で、現在44社ですが、賛助会員として機械メーカーや、原体供給会社が加入しています。JGAの会長は、沢井製薬の代表取締役会長の澤井弘行氏です。
岡部 それにしても、これだけの組織で事務局の専従5人というのは少数精鋭ですね。普及啓発に加えて、薬制とか薬効とか安全性の問題とか知的財産の保護や国際活動など、いろいろなことを5人の事務局でこなしていかれるのは、大変ですね。専門分野の仕事は、各社からの代表者を集めて委員会方式で対応しておられるのでしょうか。
長野 そうです。会員各社からの委員で構成するそれぞれの委員会が具体的な方向性とか政策を出してきて、それを実行に移すのは主にわれわれ事務局の仕事になります。
岡部 政策の方向を決めるのは各種の委員会で、理事会の承認を経て、事務局が実行に移すという仕組みですね。理事長というのは、JGAでは、実行部隊の事務局長という位置付けと理解してよろしいのでしょうか。
長野 そうですね。
岡部 JGAの会員には製造会社ではない販売専門の会社は入っていないのでしょうか。
長野 医薬品の製造販売業者として国の許可を得てジェネリック薬を製造するメーカーの団体です。ジェネリック専門の販社は数社あり、ジェネリックの数%は直販されています。それらの販社は別の団体を作っており、JGAと直接の関係はありません。
岡部 医薬品卸が合併や連携で巨大化してきた今日でも、ジェネリック専門の販社が存在するのは、卸が巨大化するから、逆に隙間があるということでしょうか。
長野 いや、そうではなく、ジェネリック薬メーカーも、今後は、広域卸を通じた全国ネットワークを通じての販売に主力をおいていかないと、なかなか生き残れません。やはり、卸経由の比率が、今後は増えていくものと思います。
岡部 隙間はあるにしても、限界があるといことでしょうね。
長野 調剤薬局チェーンとか、大手病院あたりは、やはり、広域医薬品卸のルートがメインですから、ジェネリック専門の販社の多くは、調剤専門の薬局とか開業医とかを中心に取引しています。
岡部 JGAの目的はいろいろあるのでしょうが、基本的には、やはり国民に広く認知してもらうということに重点を置いておられるのでしょうか。
長野 そうです。それと業界としてのいろいろな対策を講じることです。たとえば、安全性情報の提供、薬価問題、品質問題、それに国際連携問題など、それぞれに委員会があって活躍しています。
岡部 もう一つ、昨年設立されました「日本ジェネリック薬品学会」というのもありますね。この学会とは、安全性の問題などで連携されてはおられないのでしょうか。
長野 学会とはお互いに協力する部分はありますが、直接の関係はありません。ただ、それだけジェネリックが注目を浴びてきたということで、学会もジェネリックそのものを普及させていくために、医療関係者への理解を深めるという目的で立ち上げられたものと理解しています。
岡部 学会の設立趣旨にも、ジェネリック医薬品の健全な育成を計る必要性が強調されていますね。
ところで、JGA加入の44社以外にも、ジェネリック薬メーカーは多数存在するのでしょうか。
長野 先発品メーカーでも、ほとんどのメーカーが1品目や2品目はジェネリックの承認をお持ちです。また、先発・後発双方を製造し、製薬協とJGA両方に加入しているメーカーも4社ほどあります。
岡部 すると、厳密には先発メーカーも全部ジェネリック薬メーカーでもあるとうことですね。
長野 1品目でもジェネリックの承認を持っている会社を数えれば、200社以上ありますが、ジェネリック専業のメーカーはほとんどJGAに加入しています。正確なデータはありませんが、数量的には、ジェネリック生産量の7~8割と推測しています。生産額では、4,000億円程度をJGA加入会社で製造販売しています。
岡部 そうすると、ジェネリック専業の大手・中堅のほとんどはJGAに加入済みということですね。
長野 そうです。ジェネリック専業で未加入の会社を厳密に把握はしていませんが、ごく僅かです。それに、専業の定義も困難でして、たとえば、JGA会員会社の子会社も結構あります。このような子会社はJGAに直接加入していない場合があります。
〇 ジェネリック業界の動向
岡部 ジェネリック薬のシェアは数量ベースで17~18%ということですが、金額ベースでは5~6%と半分以下ということですね。ジェネリックの価格は発売当初は先発薬の7割に設定されますが、値下げのスピードが早く、単価がそれだけ安いということでしょうか。
長野 そうですね。薬価ベースでいえば、ジェネリックの薬価は先発薬のだいたい半分ですね。価格競争が激しいので、実勢価格が下がり、薬価調査のたびに薬価の引き下げがおこなわれます。
岡部 日本のジェネリック薬メーカーの売り上げ規模は、最大でも約400億円と世界の大手ジェネリック薬メーカーと比較すると大きな開きがあります。この点では、先発薬メーカーと同様に、生き残りをかけての再編が活発化してきているのでしょうね。
長野 企業再編が進むのは、製薬業界全体の問題で、ジェネリック特有ではありません。
岡部 一方で、ジェネリックの市場は今後1兆円規模に成長するとの予測のなかで、最近では、外資系メーカーとの合弁や提携が活発化しております。JGA会員にも外資系が増えてきていますが、国内メーカーとの関係については、JGAとしてどのように見ておられるのでしょうか。
長野 外資系を特別に意識することはありません。お互いに切磋琢磨しながら成長していけば、よろしいのではないかと思っています。
岡部 JGAとしては、外資の参入も歓迎であり、問題視はしていないということですね。
〇政府の掲げている2012年のジェネリック薬シェア30%目標の達成
岡部 米国は別として欧州主要国に比しても、わが国の使用量ベースでのジェネリック薬比率17~18%は低い水準にありますが、2012年に30%以上という目標値達成はできるのでしょうか。
長野 政府のジェネリック医薬品使用促進策が今年4月からスタートし、ジェネリック各社の数量は伸びていますので、一定の効果は認められます。しかし、今のままのペースで30%を達成できるかどうかは、なんとも言えないという気もしています。今年前半では、十数パーセントくらいしか伸びてないのです。2012年までに今の倍にしようと思うと、毎年20%ずつぐらい伸びないと目標値に達しません。新しい使用促進制度がスタートした年には、ぐっと伸びて、あとは徐々に増えるのが自然と見ると、ちょっとペースが遅いのかな、という気がしています。
岡部 厚労省がアクション・プログラムまで作ってやっているのに、なかなか伸びない原因となっているものは何でしょうか。
長野 それは、我々ジェネリック業界がさらに努力しなければならないものと、行政に更なる対策をお願いしなければならないものとがあると考えています。 業界として努力すべき点は、やはり厚生労働省が平成19年10月に策定したアクションプログラムに示されたジェネリック業界が取り組むべき安定供給、品質確保、情報提供に関する課題を着実に実行することであると考えています。
当協会では、会長をリーダーとする信頼性向上プロジェクトを平成19年8月に発足させ、アクションプログラムで取り上げられた課題の達成に向けて精力的に取り組んでいます。
また、さらにこれら業界の取り組みを広く理解していただくことや、ジェネリックを使用することのメリットを一般の人に理解していただくための活動が必要と考えています。
行政にお願いしたい点としては、需要側へのインセンティブの強化や、ジェネリック医薬品を30%以上使用した場合の調剤基本料の加算基準が処方せんの枚数で行っていることについて、実際の数量でのカウントに改善していただきたいことなどです。
〇ジェネリックの品質問題
岡部 やはり、ジェネリックについての理解が足りないのは、医師、薬剤師でしょうか。患者ではなくて。
長野 医師、薬剤師がジェネリック薬に対して抱いている根強い不安感があるのは事実です。私どもは、アクション・プランで一生懸命努力して、そういう不安をとり払って信頼を勝ちとっていくしかありません。
岡部 ジェネリックの品質については、規格及び試験方法、安定性試験、生物学的同等性の担保の3点で新薬と同等であることが求められています。
昨年9~10月に実施された日本医師会のアンケート調査では、①内服薬ジェネリックの破損・変色、非溶解など剤型の問題、②外用薬ジェネリックの使用感の問題、③注射薬ジェネリックに新薬と異なる溶解補助剤などの添加剤が付いている点などがクレームとして挙がっており、薬剤の主成分ではなく、溶解度の異なる添加剤などにクレームが集中しているようです。
長野 添加剤が違うという指摘があるのは承知しています。ただ、添加剤が違うといっても、添加剤そのものには薬理作用もなくて、従来から安全性が確立されたものしかどのメーカーも使っていません。ジェネリック薬の添加物が先発と異なっていても先発と治療学的に同等であることを、生物学的同等性試験により確認しております。すなわち、同じように体内に吸収され、血中濃度が上がることを確認しております。
岡部 添加剤が違うことで、効能が大きく変わったり、安全性が損なわれたりするということはないわけですね。
長野 ジェネリックには、溶出パターンも、先発薬との同一性が求められています。ジェネリックメーカーは、日常の品質管理に加えて、定期的に実生産ロットでの溶出パターンが先発薬と同等であることを定期的に確認するよう努力しています。
岡部 ジェネリックの同等性の基準は審査機構が決めることですか。
長野 厚労省から生物学的同等性試験のガイドラインが示されていますが、いまや世界中どこでも、そういう手法で同等性試験をやっているということです。
岡部 それにしても、同種のジェネリック薬を販売しているメーカー数が多いということとは、まったく関係がないのでしょうか。
長野 それは、まったく関係ありません。と言いますのは、すべてのメーカーの製品について、ガイドラインに従って、同等性を確認するわけですから。
岡部 大手先発メーカーからの委託生産もあるのですか。
長野 大手先発薬メーカーが出している薬でも、JGAの会員が受託生産している場合があります。それだけ、ジェネリック薬メーカーの製剤技術、製造技術が上がってきたものと思います。
〇ジェネリック薬メーカーの安定供給体制と情報提供能力
岡部 ジェネリックの安定供給と情報提供については、いまのところ大きな問題は出ていないようですが、需要が急増した場合に、現状の製造能力で対応できるのかどうか、この点についてはどうお考えでしょうか。
また、「不採算になるとすぐにすぐに製造販売をやめるといった例が過去に少なからずあった」という医師からのコメントもたくさん見られますが、これは過去の問題と言い切ってよい状況でしょうか。
長野 需要が急増した場合に対応できるかどうかについては、昨年当協会の調査で、工場や生産ラインの新増設等で十分対応可能であることが確認されました。また、厚労省から安定供給確保の通知が出ていて、今は発売開始から5年間は供給しなければならないという義務があります。その自信があるメーカーしか承認申請を出しません。
岡部 それでも、医師からのクレームで多いのは、品質の問題に次いで、安定供給ですね。急にやめたところがあったという過去の事実を指摘されているわけですが。
長野 不採算になるとすぐに止めるということではなく、需要減により止めざるを得なかったという事情もあったものです。今は、採算が合わなくてやめるにしても、経過措置期間があって、その間は供給しなければならないわけですから、急にやめるということはあり得ません。また、アクションプログラムなどで過去の不信感をぬぐう努力をしています。
岡部 合併とか吸収のケースは多いですが、製薬メーカーの倒産も聞きませんしね。供給の不安定は過去の話であると理解しました。
情報提供についてはいかがなものでしょうか。私は、情報提供が要らない点がジェネリックのメリットではないかと思うのですが。すでに10年以上も使われてきた薬ですから。
むしろ、MRをゼロにして価格を下げてほしいというのが、需要側からの要求であるべきだと思うのですが。医師は、逆のことを言いますよね。
長野 そのような考え方もありますが、需要側に情報提供の要望があるのであれば、対応しなければなりません。ただ、情報提供の方法としてMRによる方法が良いのか、あるいは今はIT技術が進んでいますので、それらを活用する方法もあるのではないかと考えています。海外のジェネリックメーカーのMRは非常に少ないということも聞いています。
今は過渡期ですから、やはり品質に不安があるということであれば、それを解消する情報をキチンと提供するというのも、ジェネリック薬メーカーの役割だろうと思っています。ジェネリック薬メーカーのMRは、そういうところに力を入れて、需要側の理解が深まれば、だんだん必要がなくなってくるのではないでしょうか。
岡部 そうですね。いったん植えつけられた先入観は、事情が180度変わっても、それを払拭するのは大変でしょうが、一段のご努力を期待しております。学会の論文をチェックするなどの情報収集能力もジェネリック薬メーカーは弱い、という批判もありますが、この点はJGAとしてどう対応されておられるのでしょうか。
長野 ジェネリックメーカーの論文チェック能力が弱いわけではなく、各社それぞれに対応しております。それに加えて、ジェネリックの品質に係る文献調査については、厚労省のアクションプログラムの中の当協会が取り組むべき課題の一つとなっており、学会で発表された論文のチェックは、JGAの「信頼性向上プロジェクトチーム」のなかに「文献調査チーム」を作って、文献を収集して分析しています。
岡部 分析の結果どう活用されるのですか。
長野 われわれが調査したうえで、その結果を厚労省に提出するのです。それは、同省の「品質情報検討会」というところでチェックされます。7月に第1回の検討会があったのですが、そこでは、今のところ、ジェネリックについての特段問題は指摘されていません。
逆に、論文の質に問題があるので、それを確認するために、10品目程度については国立医薬品食品衛生研究所で試験をやり直しましょうということになりました。
岡部 論文の質にはどのような問題があるのでしょうか。
長野 例えば、本来3ロット試験しなければいけないところを、1ロットしかやっていないとか、本来なら成分の定量法に関してメーカーに照会することもなく、分析法のバリデーションを行わずに一律の方法でやってしまったとか、基礎的な問題が多いのです。
岡部 そういう研究論文には、JGAから反論されないのでしょうか。
長野 もちろん、一つずつ反論しています。これについての科学的根拠を教えてくださいと、著者に照会するのですが、返事が返ってこないのが多いですね。
岡部 その対応までも、JGAでされるのは、かなり大変な仕事ですね。
長野 ええ、該当する会員各社に照会状を出し、論文でこういう指摘があるが、それに対する考察、反論、その科学的根拠を出してもらいます。たとえば、溶出性がおかしいといわれたら、自社の溶出のプロファイルのデータを出してもらって問題がないことを確認するので、すごく大変な作業になりますが。
岡部 毎月何本ぐらいそういう論文が出るのでしょうか。
長野 学会報告も含めて、半年で30論文ぐらいです。研究者には、科学的に正しいデータを出していただきたいと思います。
岡部 そのように進んでいるのであれば、今後はよくなっていきますでしょうね。
〇ジェネリック薬の普及啓発活動への取組み
岡部 患者に理解を求めても、無理ですね。薬の効能は、素人には分からないですから。
長野 でも、患者さんにもジェネリックのメリットは、安いということと先発薬と効能は変わらないという点にあることを理解してもらえれば、状況は改善していきます。これを根気よく続ければ、患者さんのほうの理解は進んでいくと思います。まだまだ、私どもの努力が足りないと思っています。
岡部 ジェネリックの普及に当たっては、医師や薬剤師に加えて患者の理解を得ることも重要との認識で取組んでおられ、最近では、マスコミを通じての普及浸透活動も目立ってきましたが、さらにどのような方策をお考えでしょうか。
長野 JGAだけではなく、会員各社にも訴えて、いろいろなイベントに協賛をしております。それから、新聞広告も、半年に一回ぐらいは一般紙に出しています。JGAのホームページも、この4月に大幅に改良し、非常に分かり易いものにしました。
岡部 ジェネリックは外来語で、先発・後発という用語もいま一つです。最近、「難解な医療用語100語の読み換え案」が、国語研究所から発表されて話題となっていますが、この100語の中にジェネリックが含まれていないのも不思議です。分かり易い日本語を開発できないものでしょうか。
長野 適当な日本語はないですね。「汎用医療用医薬品」といった用語も考えたのですが、ちょっと長すぎます。逆に、ジェネリックのほうは、国際共通語としてかなり普及していますから、これを使っていくしかないと思っています。
岡部 そうですね。「汎用」というのはよいですが、一般薬のOTCと紛らわしくなりますね。
長野 本来は、「代替可能薬」しょうか。外国では、「アフォーダブル・ドラッグ(Affordable Drug)」という言い方がよく使われています。
岡部 「アフォーダブル」はまさに「手ごろな、良心的な、手の届く、無理なく買える価格の」といった意味で、ジェネリックの特性をぴったり表していますが、日本語で「手ごろ価格薬」というのはちょっと変ですね。
長野 用語の問題は別として、われわれとしては、ジェネリックの品質、安全性などについて、ユーザー側が依然として抱いておられるいろいろな不安は、過去のことであることを訴えたいと思います。ジェネリック薬メーカーの製剤技術も上がっており、品質の確保や安全性情報の提供に努力をしていますので、患者さんにもそういう点でのご心配はほとんど要らないということを、重ねて強調したいのです。
〇政府の使用促進策について
岡部 今年度から医療保険制度上のジェネリック使用促進策がスタートしましたが、これらの使用促進策についてどのようにお考えでしょうか。
長野 これらの使用促進策はジェネリック業界としても歓迎すべきことと考えています。
ただ、さらに一層促進を図るためにお考えいただきたい点はあります。そのひとつは、ジェネリックを使用するすべての需要側、具体的には処方する医師、調剤する薬剤師、服用する患者さんそれぞれに対するインセンティブを考える必要があります。医師、薬剤師はジェネリック薬の使用に関して患者さんに説明したり、各施設ではジェネリック薬を備蓄しなければならず、これらに対する負担を考慮してインセンティブの在り方を検討していただきたいと考えています。
患者さんへのインセンティブは、やはりジェネリックの最大のメリットである経済性をアピールすることだと考えますが、これはジェネリック業界、行政双方で一般の人への啓発活動を行っていく必要があります。
岡部 保険医療制度上の使用促進策として、受付一回についての調剤基本料40点に、今年から「後発医薬品調剤体制加算」4点がついたわけですが、この点についてはどのようにお考えですか。
長野 ジェネリックの調剤体制加算の施設基準が「直近3ヶ月間の処方箋の受付回数のうち、ジェネリックを調剤した処方箋の受付回数の割合が30%以上であること」とされましたが、このように加算基準が処方箋の枚数ベースとなっているのが問題です。品目数がベースではないのです。
たとえば、一枚の処方箋で5つの薬剤が処方されていると、そのなかにジェネリックが一つでも入っておればよいのです。この処方箋枚数ベースでの30%では、ジェネリック薬が数量ベースで30%以上含まれていることにはなりません。
岡部 なるほど、そうですね。通常一枚の処方箋でいくつもの薬が出るので、処方箋の枚数ベースと品目数ベースに乖離がありますね。したがって、加算基準では、数量あるいは品目数をベースにすべきというお考えですね。
長野 数量あるいは品目数のベースでのジェネリック比率30%にすれば、目標を達成できる可能性が高まります。
岡部 一方で、1日当たり定額払いのDPCの普及は病院側にも安価なジェネリックの使用を促進すれば収益が上がる可能性があるという意味で相当大きなインパクトとなるのではないでしょうか。
長野 これは大きな追い風になると思います。DPC参加病院が広がれば、院内調剤の注射薬を中心にジェネリックは伸びるだろうと期待しています。
岡部 それから、これはまだまだ小さなシェアですが、健康保険組合の直接審査は、薬剤費適正化の観点からのジェネリック使用促進という意味で影響しませんでしょうか。
長野 そういうところにも期待はしたいと思っています。
岡部 米国で20年ぐらい前に爆発的にジェネリックが増え出した動機は、まさにDRGと、それからマネージドケアでした。
長野 ただ、米国では公的保険は一部で、民間の保険会社が中心となっていますから、コストに敏感です。医療保険会社からのジェネリックへの切り替え圧力が、ものすごく強いのです。
岡部 なるほど。実際には安全性とか効能に対する不安の有無というよりも、やはり、金銭的な誘因の面が大きいと見てよろしいのでしょうか。
長野 それもありますが、やはり、安全性とか品質に対する不安感も、実際にないわけではありません。それを払拭するための努力を、われわれが今一生懸命やっていかなければなりません。
岡部 本日は、ありがとうございました。
(2009年2月10日、医療経済研究機構発行「医療経済研究機構レター(Monthly IHEP)」No.172、p1~9所収)