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聖路加国際病院事務長中村彰吾氏とのIHEP巻頭インタビュー  ~聖路加国際病院の経営改革について


話し手:聖路加国際病院 事務長 中村彰吾氏
聞き手:医療経済研究機構 専務理事 岡部陽二

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 今回は、聖路加国際病院事務長の中村彰吾氏に聖路加国際病院の経営改革を中心に、人事制度、予防医療センターへの取り組み、ホスピタリティーのあり方などについてお話を伺いました。中村事務長は、JICAの業務に従事され、三年間のベトナム勤務の後、1997年に事務長職に復帰されました。 

〇 聖路加国際病院の経営改革について

岡部 1997年までは経常ベースでは赤字体質にあった貴病院を、3年間で黒字に転換されたものと伺っております。どのような改革をなさったのか、具体的にお聞かせください。

中村 当院は520床の総合病院です。従業員の数は現在、約1,200名(ボランティアを含めると約1,500人)で、一ベッド当たり2.2名という手厚い人員配置です。適正規模は病床数の1.5倍から1.8倍とされており、当院の規模では940人くらいです。病床数の2.2倍の人員は医療の質を高めるためには必要な人数ですが、人件費率が非常に高いということが問題となってきます。
 また、病院の延べ床面積は、6万平米あります。一床当たり115平米で、この広さは全国でもトップクラスの広さです。ベッド当たりの延べ床面積が広いことで、アメニティや療養環境は非常に充実していますが、一方で、経営面ではランニングコストが余分にかかります。要するに、人件費高やランニングコスト高の体質が当院の経営を圧迫し、1997年単年度の決算では、償却前で12億円の赤字でした。
 これを改善するために、27のアクションプランを作成しました。さらに、実行しなければ意味がないということでDo(実行)プランも作りました。5W1Hの要領で、このテーマは誰が、いつまでに、誰と、どのように、というようなことを、それぞれの現場ごとに企画部門とタイアップしながら計画書を作っていきました。そして、期限をつけてそれを実行していきました。まず、光熱費、リース料、宿舎関係費などの外堀から改善していきました。消灯励行や冷房の時間帯短縮まで徹底してやったので、現場の医師からの抵抗もありましたが、一人一人話し合って経営改善の必要性を理解してもらいました。
 一例をあげると、リース料については購買や経理が担当し、金利の状況はどうなのか、あるいはどこのリース会社が我々にとって有利なのかということを、用度課長と経理課長がタイアップしながら、現状のリース契約を見直すというようなことを実施しました。
 また、人事課が実施したのが、宿舎関係費の削減です。以前は、看護師のために400戸のワンルームを賃借りし、2間で8億円、3年間で12億円の家賃を支払っていました。これを節減するために、病院の空いている敷地を利用して看護師宿舎を建てました。総予算が約6億円の14階建てで、地方から出てきた看護師に優先して入居してもらいました。この結果、この設備投資は、今まで支払っていた家賃と交通費の節減で、2年分で元が取れてしまいました。

岡部 経費削減のドラスティクな方法はよく分かりました。それにしても、3年間で20億円もの収支改善を実現されたのは、収入の増加に因るところが大きいものと思われます。次に医業収入を増やすためにとられた戦略をお教えください。

中村 収入は「収入=患者数×単価」で表されます。単価である保険診療報酬は抑制されていますので、保険外の収入、例えば差額ベッド代、あるいは通常出産、人間ドックなどに重点を置いてきました。次に患者数ですが、外来は非常に混雑しており、外来患者を増やせば、待ち時間が延びて大変なことになります。したがって、入院の平均在院日数を縮めて、病棟ベッドの回転率を上げるように努めています。
 しかしながら、たとえば20日の平均在院日数を17日に縮めると、病床利用率は落ちる傾向にあります。病床利用率を落さないためには、新規入院客を増やさなければなりません。現在、我々の病院の平均在院日数は11.7日くらいですが、これをさらに短縮すべく、病診連携を強化する方策をとって新規入院客の確保を図っています。

岡部 平均在院日数を短縮して、同時に病床利用率は落ちないようにするには、具体的にはどのような対策を立てておられるのでしょうか。

中村 ナースマネージャー会(=婦長会)で病床利用率を1%上げてほしいと要請しても、メンバーにはピンと来ません。当院は、520床ですから1%というのは約5人です。ということは、今日の予約は2人というように予約客だけを取るのではなく、フリー・アクセスで救急患者が来たら、とにかく一日5人は受入れなさいと言っています。仮に、病床利用率を1%上げるために、毎日5人入院を増やせば、365日で1,800人になります。1,800人掛ける、私どもの入院単価66,000円で計算すると、入院を全病棟で一日5人増やすだけで、年間1億2,000万円売上が増加します。このように、具体的にブレーク・ダウンすることにより、病床利用率が上がり、現在では85%以上を維持しています。

岡部 昨年度は、診療報酬の引下げを織り込んで、赤字予算を組まれたと承知しておりますが、結果は如何でしたか。

中村 結果的には、危機感をもって全員ががんばったので、5億円程度の黒字決算となりました。赤字の場合には、ボーナス・カットを宣言しておりましたが、カットしなくて済み、従業員も満足でした。

 人事制度

岡部 医師についてはその採用段階から、学閥など関係なく実力本位で採用されていると伺っております。それが、経営効率のアップにも大きく貢献しているのでしょうか。

中村 医局によっては、例えば耳鼻科は慈恵医大、眼科は順天堂大学など、大学病院の医局とのつながりもあることはあります。しかしながら、全体としては学閥がなく、渾然一体となっていて、自由な雰囲気であるのは確かです。医師の新規採用面で、いま非常に成功しているのは、もう実施して4~5年になりますが、医学部の6年生に対して夏期実習を行っていることです。夏休みに1週間単位で実施しています。夏期実習には、全国の医科大学、医学部の学生が350人ぐらい登録してきます。その中から選考して250人の方に各科で実習を行っていただきます。
 そこで、「聖路加国際病院にぜひ勤めたい」という方に募集要項をお渡ししています。今年は、22名の研修医を採用しましたが、そのうちの9割は夏期実習経験者です。この夏期実習が全国の大学から偏りなく、かつ非常に質のよい人材を採用するのに大いに役立っています。また、名誉院長の日野原先生個人の影響力からも優秀な医師が集まってきます。

 予防医療センターなどへの取り組み

岡部 予防医療センター(人間ドック)では内視鏡検査に注力されているようですが。

中村 技術料の中でも、行為別に原価計算を実施すると、これからの主流は内視鏡だと考えています。具体的には、胃の内視鏡検査、大腸の内視鏡検査と内視鏡下(腹腔鏡下)の手術です。予防医療センターでは、これまで内視鏡の即日対応ができず、これではサービスといえる状況とは言えませんでした。病院の内視鏡チームに応援を依頼しても、本体の入院・外来の患者さんの予約で満杯の状態でした。
 そこで、予防医療センター向けに別働隊を作るべきということになり、去年4月に助教授クラスの内視鏡ドクターを3人ヘッド・ハンティングしました。さらに1名を採用して、現在は4名体制となった結果、これまで3ヶ月掛かった内視鏡検査のウエーティングが即日対応になりました。また、医師の腕が非常によく、評判もいいと聞いております。これらのことが強みとなり、今回の予防医療センターの拡大に踏み切りました。日帰りドックでは、1日200人体制を確立し、さらに3日から1週間の長期ドックも充実する方向で臨んでいます。

岡部 生殖医療センターのほうはいかがでしょうか。

中村 私たちの病院のブランドは、「お産」なのです。しかしながら、正常分娩の数が徐々に低下している現状があります。一方で、ご夫婦共働きで、子供が欲しいと思いながらなかなか授からない方もいらっしゃる。このようなご夫婦に対して何かお手助けできないだろうか、それがひいては少子社会の改善に貢献できるのではないかということが、生殖医療センター設立のきっかけです。
 もう一つはブランドである産科を、さらに小児医療とも連携して強化するという意識もあります。このために、昨年、部長をヘッド・ハンティングしました。生殖医療センターでの診療は、いまのところ保険外で行っております。さらに、母子医療センターを次のステップとして展開できないだろうかと考えております。 
 また、去年の4月にハート・センターを立ち上げました。いままでは循環器の内科、循環器の外科がそれぞれ別の医局でした。内科外来でバイパス手術が必要と診断されて、外科外来に回されるというような非効率さを無くそうということで、両科を合体して、ハート・センターとした訳です。

岡部 患者にとっては、内科も外科もないわけです。要するに心臓を治してほしいとか、ガンを治してほしいとか、ニーズは一つしかないわけですから、ハート・センターは合理的ですね。今、ハーバード経営大学院のレジナ・ヘルツリンガー教授著の「消費者が動かす医療サービス市場」という本を翻訳していますが、そこで彼女が提唱しているポイントの一つが、診療科の壁をなくして、インテグレーテッド・サービスを提供すべきということです。

中村 ハート・センターを設立時には年間70例ぐらいの心臓血管外科の手術が、いまはもう190例に増加し、効率的な医療サービスが提供できているものと考えております。

 外来診療について

岡部 急性期特定病院というのがありますが、認定をお受けにならないのでしょうか。

中村 唯一、入院と外来の比率が1.5倍というのがクリアーできず、取得できない状況です。他の条件は全部クリアーしています。

岡部 この倍率を引下げるために、外来を抑えると財政的に困るのでしょうか。

中村 原価計算を行うと外来は29科のうち18科(62%)が赤字です。やればやるほど赤字が膨らむ状況です。

岡部 それならば、初診料を引上げられたらいかがでしょうか。

中村 いまのところ、紹介状がない人には消費税を含めて3,150円をいただいています。初診料が自由化された当時は、聖路加は国立がんセンターに続いて、二番目ぐらいに高い初診料でした。いまは、どこも当院と同じくらいの初診料を取っているようですね。
 初診料を上げることについては、地域柄、非常に難しい問題があります。紹介客は低額ですから、小児科の「かかりつけ医」にまず診てもらってから、紹介状をもって当病院に来て下さいといっても、この地区には小児科医がいません。1家族で子供が2人同時に風邪をひいてしまうと、初診料だけで6,300円も払うことになってしまいます。

岡部 この地区に小児科のクリニックを作ってもらう必要がありますね。

中村 まさにそうです。これは慎重にやっておりますが、当院として、次に考えておりますのが、外来のサテライト化、クリニックの分離独立を視野に入れていくしかないと思っております。

 病診連携に関して

岡部 とくに急性期の場合よくあるケースですが、社会的入院とまでいかなくても、患者はもっと長く入院していたいのにもかかわらず、病院側としては、診療報酬の関係から、とにかく早く退院させるように仕向けざるをえません。入院患者からのクレームで多いのは、このようなケースについての不満が多いと聞いております。このような不満に対する対応はどうしておられるのでしょうか。

中村 われわれの病院では、1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月と期間別の長期入院者のリストが出てきます。それを主治医にフィード・バックして、その理由をレポートにして提出してもらっております。そのレポートに基づいて、場合によっては、ケース・ワーカーが介在して、病状が安定・固定期になったら転院できるかどうかなどを検討していきます。現在、4名のケース・ワーカーがおり、そのような業務にも従事しております。

岡部 そのようなファンクションがあれば、患者の退院をスムーズに進めることができますね。ただ、この規模の病院で、ケース・ワーカーを4人も置いているところは少ないのではないでしょうか。

中村 もう一つは、紹介元の医師をお呼びして、ミニ・カンファレンスを行います。そして、当病院の医師が、紹介医に専門の分野でのトピックや技術面などをレクチャーします。紹介医とのカンファレンスは、紹介先の診療所と当病院との信頼関係構築のためでもあります。当院は当初、紹介率が14%でした。紹介率が30%を超すと、一日75点の診療報酬加算があるので、紹介率をとにかく30%に上げようと努力しました。
 まず、紹介されない要因は何かということを調べたところ、一度、聖路加に紹介したら患者さんを取られてしまうという不安があったようです。この不安を解消する必要がありました。そこで、紹介状に対する返信率にも着目しました。つまり、紹介元からご紹介いただいた患者さんについて、当病院でこういう検査をやりました結果、この疑いがありますので、手術の適用になります、手術日は何日に決めさせていただきましたといった具合に、紹介元にもフィード・バックするような流れを作りました。

岡部 そういうフィード・バックのルールをすべての科の医師が守っているかどうかについては、どのようなチェックをされるのですか。

中村 返信率の悪い医師のブラック・リストを出します。また、全体会議でその資料を配り、改善すべき点を指摘させてもらいます。当然、それを医師の人事考課に反映させます。医師からの反発はありましたが、「先生、お手紙をもらったら、お返事を書くのが当然でしょう。これが紹介元との信頼関係になるのです」と説得しました。いまでは返信率は、95%に達しています。残りの5%は何であるのか調べると、現在検査中であるとか、検査結果がまだ出ない、あるいは現在入院加療中であるなどで、実質100%といえます。

 ホスピタリティーについて

岡部 聖路加国際病院は、従業員のホスピタリティーの精神が非常に高いとお聞きしております。その秘訣をお教えいただけますでしょうか。

中村 その点は、実は、頭の痛いところなのです。一番、接遇態度が悪いのはドクターなのです。したがって、ドクターに対してはインフォームド・コンセントを徹底して欲しいとお願いしています。いま、「私たちのご意見箱」という箱を置いていまして、1週間に2回開けています。たとえば、内科の中村先生は忙しいせいかろくな説明をしないとか、せっかく3時間も待って診察室に入ったら、おまえ、何しに来たって言われたとか、いろいろです。
 当然、名指しの投書もあります。名指しの場合には、その先生を呼んで、説明を求めます。その先生はきちんと説明しているとおっしゃいますが、インフォームド・コンセントというのは、説明だけではなくて、納得していただかなければならない。治療においても患者さん自身が参加し、選択する権利があるということをお話します。
 また、研修医に対しては、オリエンテーション中に顧客接遇教育を行います。たとえば、髭ぼうぼうで病院の廊下を歩かない、手術着を寝間着みたいによれよれにしない、サンダル履きでは歩かない、エレベーターに先に乗ったらドアボーイを務めるなど基本的なことから徹底的に行います。
 さらに、ホスピタリティーのさらなる向上をめざして、昨年は100周年ということでマナー向上のキャンペーンを行いました。医師も参加してもらって、だいたい15人に1人の割合でマナー・リーダーを指名し、約70のチームで競い合いました。そして、ベスト・マナー賞を投票で決めました。一番良かった部門は薬剤部でした。

 今後の課題

岡部 今後の最経営課題は何でしょうか。

中村 電子カルテの全面的導入が今年の大きな課題です。また、保険外収入獲得を目指すため、予防医療センターを移転拡充し、最終的には、1日200名体制にしたいと考えています。そうすると、保険外で年間30億円の売上になります。私の知っている300床の病院は売上26億円で、300人以上の従業員が働いています。これに対し、予防医療センターではスタッフ90人で年間30億円の売上を達成したいと思っています。予防医療センターのスタッフには、90人の少数精鋭で、なんとかがんばってくれるように話しています。

岡部 医療の質と経営の質の向上が両立している貴院の姿に感銘を受けました。ますますのご活躍を期待しております。 

                           (取材/編集 山下)

(2003年6月医療経済研究機構発行「Monthly IHEP(医療経済研究機構レター)」No.110 p2~9 所収)

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