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海外資金調達の新手段-変動利付CDのすべて ~ 欧州、シンガポールで邦銀ハッスル

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 "SUMITOMO PIONEER FLOATING RATE CD" ~ 住友銀行・住友ファイナンス・インターナショナル共同開発による第1号フローティング・レートCD(変動利付CD、FRCDと略称)の発行を報ずる1977年4月25日付、ロンドン・タイムズの大見出しが、シティの関係者を驚かせてから早や、2年半を経たが、この間にユーロ・フローティング・レートCDの発行残高は当初の予想を遥かに上回る70億ドル(約1兆7,000億円)の規模に達した。

 このうち、邦銀の発行残高が約60億ドル弱(1979年9月末現在、別表参照)と86%を占めており、1979年7月に解禁となった満期5年物FRCDだけでも最近3カ月間ですでに6億ドル弱が発行されている。また、アジアダラー市場においてもFRCD発行残高は8億ドルを越え、邦銀シェアはユーロ市場同様、約85%に達している。 

 本論は、ユーロ金融市場において、このように急成長を遂げたFRCDについて、その開発に至る経緯とその後の市場展開の軌跡を中心に、解説を試みたものである。FRCD今後の課題としては、一段の期間長期化の実現がポイントであるが、わが国CD市場への"ユーロ型"フローティング・レート方式の導入も検討に価しよう。                                                     

ユーロCDおよびFRNの生成発展

 FRCDを論ずるに当たってはまず、その前身とも言うべき固定レートCD(Fixed Rate Certificate of Deposit)およびフローティング・レート・ノート(Floating Rate Note・FRNと略称)の生成過程に触れないわけにはいかない。

 まず、固定レート方式のCDは1961年に米国内の預金吸収手段として米銀により開発された。さらにこれがユーロ市場に導入されて、1966年5月26日にロンドンにおいて最初のユーロ・ドル建てCDがFNCB-ホワイト・ウェルド社の手で発行され、1972年には邦銀も発行体としてこの市場に参加した。

 ユーロCDは①持参人払い方式の譲渡可能な定期預金証券であること、②投資家はいつでも自由に換金でき、既発CD売買のための流通市場も整備されて来たこと、③ユ-ロ債同様、支払い利息には全く税金が課せられないことなどの点で国内CDに優っている。ユーロCDはこのような投資対象としての魅力を備えているため、スイス中心の個人投資家の貯蓄対象ともなり、また、大手機関投資家の余資運用としても幅広く利用されるようになった。

 この結果、固定レート方式のユーロ・ドル建てCDは第1号発行後10年を経て、1976年末には発行残高140億ドルの規模にまで成長したが、①発行銘柄が大手米銀中心であったこと、②CDの期間はこのほど廃止された英国の為替管理法規制下でも5年物まで発行可能のところ、実際には満期1年内の短期物の比重が高かった点に特色がある。

 次にフローティング・レート・ノートは1970年初頭に高金利の固定レート債券発行を嫌った一部欧州企業のニーズに合わせて、S・G・ウォーバーグの手で開発されたものである。その後、発行件数も少なく、低迷していたところ、1975年に至り、大銀行が中心となって長期貸金の原資をユーロ市場から安定的に調達するための手段として広く活用するようになり、現在までに、169件(金額にして総額79億㌦、うち銀行債58億㌦)のFRNが発行されている。FRNは通例、期間5~12年の中長期であり、LIBORペース(3~12ケ月物短期ユーロ資金の金利基準)の中長期資金を必要とする発行体の需要に適した調達手段ではあるが、ノートといっても実務上は社債発行とほぼ同様のかなり煩瑣な手続き要し、発行コスも社債並みに高くつく点が発行者にとっての問題とされている。

1.フローティング・レートCD開発の経緯

 上述のごとく、固定レートCDによる5年物までの資金および変動レートFRNによる5~12年物の中長期資金の組み合わせにより一般の銀行は何とか、ユーロ市場において中長期資金を調達できたことが、逆説的に言えばFRCDの開発を遅らせたものと考えられる。というのは国内サイドの政策的配慮から海外でのFRN発行の道をまったく閉ぎされて来たのはわが国の都市銀行(東銀を除く)だけであり、したがってその他大多数の世界中の銀行は固定レートCDとFRNを組み合わせた資金調達で一応満足していたからである。

 さらに付言すれば、このような特異な立場に置かれたわが国の都銀のみのために必要とされる資金調達の新手段開発を欧米のマーチャント・バンク・に期待するのは、本来無理な相談であった。このようなイノベーションを実現するには住友ファイナンス・インターナショナルのような、いわゆる都銀系マーチャント・バンクの出現と成長をまたなければならなかったわけである。

(1)邦銀にとっての安定的中長期資金調達の必要性

 1970年代に入り、ユーロ市場における中長期シンジケート・ローンへの邦銀の参加が活発化し、1974年末には邦銀全体で中長期貸金残高86億㌦を越えるに至ったが、資金調達面では、ほぼ全面酌にユーロ市場からの短期資金取り入れに依存していたため、ヘルシュタット蹉跌後のユーロ危機時には資金取り入れに困難を来たし、いわゆる"ジャパン・レート"(邦銀向けの割高金利適用)がかなり長期にわたって定着した。 このように危弱な邦銀の資金調達構造を是正するには安定的な中長期資金取り入れが必要であったにかかわらず、前述のとおり、(ⅰ)わが国においては国内資本市場での社債発行は一般企業と長期信用銀行および東銀にのみ認められ、都市銀行には認められていないところから、このような垣根はいっさい存在せず、本来自由であるべき海外市場についても都銀の外債発行は制約を受けてきたこと、(ii)あらゆる資金調達のアドバイザーとして、海外における都銀外債発行を率先して手掛けるべき立場にある証券会社も、いわゆる"65条問題"との絡みから、都銀外債実現に反対してきたことなどの日本的特殊事情から、都銀の中長期資金調達は具体的方途をまったく閉ざされたままであった。

表1

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 一方、1977年以降、邦銀のシンジケート・ローン参加は一段と進展、資金調達面でのアペイラビリティ・リスク回避の見地から何としても中長期資金調達比率を高めなければならない状況が一層深刻化し、あわせて本邦当局の指導もこの線に沿って強化されて来たため、一部の都銀はユーロ・マネー市場からの期間1年超の中期預金取り入れを手掛け始めた。 

 しかしながら、中長期資金を短期資金中心のユーロ・マネー市場のみから預金の形で取り入れる場合、量的にもおのずから限界があり、かつ、取入期間、条件面で質的にも問題が多い。この壁を打ち破って新たな資金調達源を求めるには、このための目的に適った独自の調達手段が必要とされるのは正に自明の理であった。

(2)住友銀行・住友ファイナンス・インターナショナルによるFRCDの共同開発

 このような状況を踏まえて住友ファイナンス・インメターナショナルは親銀行からの要請に基づき、ユーロ資本市場での中長期資金調達方式を種々検討したが、FRNの発行は外債の一種と看做されて実現できないところから、従来は固定レート物しか認められていなかったユーロCDにフローディング・レート方式を導入する方向に的を絞って、1977年初よりこの具体化に着手した。

 FRCD開発に当たって直面した問題点には技術的なものまで含めると十指を超えるものがあったが、中でも根本的な問題点は次の2点であった。

 ①日本国内ではCDは譲渡可能な定期預金証書ということで預金の一形態としてとらえられている。ところが英蘭銀行の解釈ではCDが市揚で転々流通するものである以上、英法上は有価証券(Negotiable Instruments)であるものの、有価証券の一要件として将来支払われるべき利息は確定していなければならないとする見解が従来一般的であった。この解釈によれば、利息が変動する方式のFRCDにはその有価証券性に疑義があった。したがって英蘭銀行としてはこの点に関する英国法務院の有権解釈が出なければFRCDを認めるわけにはいかないという法解釈論の壁があった(FRNの場合、ノート券面、ノート発行契約書に詳細な規定を盛り込むことによってこの問題を解決したが、CDの場合には券面の約定記載事項は物理的な制約上、簡単であることを要する点、およびユーロ通貨建のFRN発行は英蘭銀行の規制外であるに反し、ロンドンCDは英蘭銀行の許可を条件として発行される点、FRNとその本質を異にした)。

 この問題をめぐって筆者は英蘭銀行と英国法務院の間を往復したが、最終的には「有価証券性うんぬんはあらかじめ法律で決めるべき事柄ではなく、市場で転々流通する実績がつけば、その事実を踏まえて法的にも有価証券性を具備するに至るものである」というきわめてプラグマティックな解釈により、決着がついたのは誠に印象的であった。

 ②邦銀がFRCDを発行するには英蘭銀行の許可と同時に本邦大蔵省当局の了承をも必要とした。当社は当初より期間5年物のFRCD発行を計画したが、債券発行銀行に対する政策的配慮から、第1号FRCDは3年物とせざるを得ず、5年物のFRCD発行は1979年7月5日に至ってようやく実現することができた(下の墓石広告参照)     

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 このような難関を乗り切って1977年422日に世界初のFRCD発行にこぎつけた。FRCDはユーロ市場の評判もすこぶるよく、邦銀各行とも相次いで発行に踏み切ったため、その発行額は別表に見られるとおり、開発当初からかなり早いピッチで増加、発行残高も累増を続けた。 また当社はFRCDを当初はユーロ債同様、主として長期資金の投資家を対象としたユーロ資本市場で売捌くべく予定していた。しかし、後にも述べるとおり、このFRCDは銀行、トラスト・ファンド、一般企業などの短期資金運用にも幅広く利用された。

 また、米国内でも大量に消化されるようになったため、券面も住友銀行発行第1号の1万㌦から25万㌦、さらには100万㌦に大型化した。金利の計算方式はユーロ預金取引の慣行では利払日が休日にあたった場合、利息期間をそのつど変更する方式をとっていたが、当社が採用した米国流の休日を考慮しない方式も一般化するようになった。このように、当初予測しなかったイノベーションも急速に進展した。

 以下にFRCDの性格、流通機構、並びにそれらから派生するFRCDの発行銀行および投資家各々からみたメリットの分析を試みた。これによりFRCDが邦銀のドル資金調達、ひいては国際策務推進に果たしている意義を浮き彫りにしたい。

2.ユーロ・フローティングCDとは

(1)一般的定義

 FRCDは期間が通常、3年ないし5年の定期預金を証するものとして、銀行により発行される金利変動方式の譲渡可能定期預金証書である。

 CDとしての法的性格は従来の固定レートCDとなんら変わっていないが、金利決定方法、並びに流通市場における取引形態はFRNに類似している点で、これまでの固定レートCDと性格を異にしている。

 ユーロFRCDの金利は利払日における3ヵ月または6ヵ月ユーロドル金利にあらかじめ定められた利鞘(スプレッド)を加えることにより、3ヵ月または6ヵカ月ごとに変更・決定される。基準レートとして用いられるユーロドル金利は発行時の市場状況に応じ、出し手レートまたは仲値レートが一般的に用いられている。

(2)流通市場

 FRCDの取引は通常のユーロ債、FRN同様、プライス・ベースで建値がなされ、取引が行なわれる。この点、割引レートベースで取引される国定レートCDと異なる。

 FRCDの売買取引は従来の固定レートCDディーラーに加え、FRNディーラーにより常時建値が行なわれているため、FRCDの流通市場における市揚性はきわめて高い。

(3)金利

 FRCDの金利は証書に記載された3ヵ月または6ヵ月ごとの利払日に支払われる。各利息期間の適用金利は証書に定められた方法により決定される。

 すなわち、上にも述べたとおり、各利息期間開始2営業日前の午前11時現在、主要銀行より特定の銀行数行(リファレンス・バンク)にオファ-される当該期間のユーロドル預金金利を算術平均の上、16分の1%単位で切り上げたのち、あらかじめ定められたスプレッドを加えたものが適用される。利息金額は1年・360日ベースで経過日数に対して計算される。

 新適用金利の預金者への通知は当初代表的日刊紙への公告により行なわれていたが、市場の拡大、発行件数の増大に伴い、簡略化され現在では特に公告がなされないケースが圧倒的に多い。

(4)額面並びに一回の発行額

 一般投資家への販売を主眼とするトランシェ(一括発行)方式の場合、額面は1万㌦であるが、大口投資家を対象とする額面100万㌦のものもあり、高額面の場合には通常25万㌦単位で額面決定が行なわれている。

 また、一回の発行額については固定レートCDの場合、タップ(都度発行)方式による一件100万㌦単位での発行が行なわれているが、FRCDの場合には金利決定に事務的煩雑が伴うことから発行銀行側にまとまった金額で一件ごとの発行を行ないたいとの要望が強く、一回1,000万㌦から5,000万㌦の一括発行という従来の固定レートCDには見られなかった発行方式が一般化してきた。

(5)決済方法

 発行時点および流通市場における決済は通常のユーロ債およびCDと同様である。すなわち発行時点における支払いはニューヨークでのクリアリング・ハウス・ファンドで行なわれ、CDの引渡しは支払い確認後、直ちにロンドンにおいて行なわれる。

 流通市場における決済は通常、ユーロ債等の決済機関を務めるユーロクリアー、セデル並びにファースト・ナショナル・バンク・オブ・シカゴが開設したCDクリアリング・センターを通して行なわれる。しかし、これら決済機関が高額面FRCDの決済を取り扱わなかった初期の段楷では、ロンドン・ニューヨーク間の時差の関係から、資金払い込みの確認に時間を要し、決済に円滑を欠くことがままあった。また、売買時点では決済の確実性を取引相手の信用度に頼らざるをえないという、構造的欠陥から取引参加者は一部の機関投資家、およびCDディーラー、ブローカーに限られていた。

 これに対し、決済機関を通じる湯合には、加盟者間の決済は決済機関に開設された預け金口座とCD保管口座を通じてCDの引渡しと同時に資金の支払いを完了するので、上記のような決済上の懸念も一掃された。

 このように、決済機関のFRCD受け入れが決済円滑化に果たした意養はきわめて大きく、現在、決済並びに取引市場についての物理的制約は全くない。

 元利金支払日には発行銀行(ユーロCDの場合、ロンドン支店)に証書現物を提示することを要するため、ユーロCDは必然的に上記三大決済機関、および保管銀行業務を営む若干の銀行の手に集中する傾向にある。

3.フローティング・レートCDのメリット

(1)発行銀行にとってのメリット

 発行銀行、なかでも特にその大宗をなす邦銀にとって、FRCDは外貨資産の過半を占めるフローティング・レート貸金見合いの資金を弾力的、かつ容易に調達できるという、他のいかなる金融商品も及ばない利点を有する。

 前述のとおり、1974年のヘルシュクット危機後には、ジャパン・プレアミムの出現により、不測のコスト増を余儀なくされ、さらにはドル資産のアベイラビリティにも不安が生じた邦銀にとって、短期ユーロ預金の長期固定化を可能とするFRCDの出現はまさに時宜を得たものであった。邦銀のユーロクレジット市場における、ここ数年来の業務拡大はFRCDの出現なしには不可能であったと言っても過言ではなかろう。

 以下、他の金融商品との比較においてFRCDの発行銀行にとってのメリットの解説を試みた。

①  ユーロ短期預金との比較

 短期ユーロ預金は先に述べたごとく、資金の安定性に乏しく、かつユーロ・マネー市場動揺時にはアペイラビリティ・リスクが生じ、プレミアムが発生する。これに対し、FRCDはベースレートが複数の欧米一流行にオファーされるレートの平均を採って設定されるため、ジャパン・プレミアム等を生ずる懸念はない。なお、ユーロドル金利に上乗せされるスプレッド部分は預金期間の長期化に伴う当然の金利コスト増と考えられる。 また、FRCDの場合、その期間中は私戻しに応ずる必要もなく、長期安定資金であることは言をまたない。

② リボルビング方式 ~ 長期フローティング・レート預金との比較

 銀行および預金者間の契約に基づき、金利決定はFRCDと同一の方式で一定期間、短期ユーロ資金をリボルビング方式により受入れるケースがある。

 この場合、預金は指名債権であって、当然譲渡性を有しないため、資金出し手の数、資金量ともにきわめて限られている。したがって多額の長期安定資金の調達源としてはFRCDに遠く及ばない。

③ 固定レートCDとの比敏

 中長期のユーロドル貸金の大半がフローディング・レート・ベースのもので占められている状況下では固定レートCDによる長期固定レート資金の調達は常に長短金利差のリスクにさらされる危機を内包している。

 したがって、理論的には固定レートCDによる調達は短期貸金および固定レート貸金に見合うべきものであって、邦銀にとり、主たる資金調達源とはなりえない。

 かつ、最近は長短金利の逆転現象が長期化しているが、短期金利が急上昇する局面では、固定レートCDに対する投資需要は減退しているので、ごく短期のものを除き、その発行自体ほとんど不可能となっている。

④ FRNとの比較

 FRNとFRCDはその発行の目的がきわめて類似している。しかしながら、FRCDはマネー・マーケットにおける商品としての性質を色濃く有しているため、定型化が徹底しており、その発行にあたって、FRNほどの形式性および書類準備を必要としない。

 したがって、FRCD発行コストはFRNのそれを大きく下回り、両者の接点である期間5年物の場合、年率換算ベースで0.2~0.3%程度FRCDの方が発行銀行にとって安くついている。このため、期間5年物については債券発行銀行ですら、FRCDによる調達へと完全にシフトしている。さらには英国の為替管理撤廃により、ユーロ市場におけるCDの最長期間5年の制約が法制上外れた今、発行銀行サイドの要請からFRCDの長期化が投資家の利害との接点を求めつつ、急速に進むことになろう。

(2)投資家にとってのメリット 

 投資家にとってFRCDが有する利点はその譲渡可能性と、金利変動に伴うキャピタル・ロス・リスクの回避に尽きるといっても過言ではない。

① 預金との比較

 FRCDは持参人払い式の譲渡可能定期預金証書であって、すでに繰り返し述べたごとく、その発達した流通市場により、換金性が保証されている。

 したがって、FRCDを購入した投資家は自己の資金繰りの都合上、ないしは短期金利の変動を利用してのキャピタル・ゲイン実現等の目的で何時にても転売可能であり、短期資金運用対象としてきわめて魅力に富んでいる。

② 固定レートCDとの比較

 長短金利の動向につれて価格が大きく変動する固定レートCDに比べ、FRCDはキャピタル・ロスのリスクがきわめて少ない。何となれば、金利更改の都度、適用金利はそれぞれの時点における市場実勢レートに設定されるため、その間、若干の価格変動があるにしろ、利払日前後にはFRCDの価格は発行価格に収束するからである。

 いま、事柄を簡単にするため、期間6ヵ月物の短期ドル金利が10%の水準で100の価格で売買されているFRCDが存在していると仮定する。 このFRCDの金利水準決定直後に短期ドル金利が1%上昇したとすると、FRCDの流通価格は年率で1ポイント、すなわち99.5に下落する。そしてその後の金利水準に変動がなければ、6ヵ月後の金利更改時には100へと次第に価格は回復して行くはずである。もちろん、現実には金利は日々複雑に変動しており、上記のような単純なケースはありえないであろうが、いかなる金利変動の中にあっても、6ヵ月後には価格は復元するという性格を有することが、固定レートCDとの大きな差異となっている。

4.FRCDの市場多様化と発行量の急増

(1)発行主体の多様化

 本邦都銀の長期フローティング・レート資金調達手段として考案されたFRCDは、その後、その簡便さと低い発行コストから外国銀行によっても発行されるに至った。

 FRCDを発行した外国銀行の国籍はフランス、スイス、スペイン、ブラジル、ベネズエラ、シンガポール、インドなど、きわめて多岐にわたっているが、これら外国銀行はFRN発行を自由に行なえるものがほとんどであることを考えれば、FRCDはFRNと並ぶ、有力なフロ-ティング・レート資金調達手段としての地位を確立したといえよう。

 ちなみにFRCD発行総額770㌦に占めるシェアは邦銀85%、外銀15%と推測される。

(2)発行条件の多様化             

 当初、3年物で出発しなFRCDはその後の市場規模の拡大にあわせ、発行条件を大幅に多様化した。すなわち、期間においては、5年物までの長期化が実現するとともに、金利設定方法も創設時点の最低金利付、インターバンク出手レートに一定マージンを加える方式から、最低金利なし、インターバンク・出手・取手仲値レートに一定マージンを加える方式へと比重を移してきている。

 とくに、5年物FRCDは1979年7月、当社の手により、第1号が発行されて以来、急速に発行量を拡大、1979年7~9月4半期においてはFRCD総発行額の約3分の1、6億㌦弱に上ったものと推定される。

 現在までのところ、投資家からの好調な需要を背景に、発行条件は発行銀行に有利な方向にその多様化が一貫してなされてきたが、ごく最近では米国金融市場での引き締め強化による需要急減から、発行銀行に不利な方向への反転の兆しも見られる。

(3)発行市場の多角化

 ユーロ市場におけるFRCD市場は1977年4月の当社幹事による住友銀行ロンドン支店FRCDを第1号として誕生、1977年(8ヵ月間)5億㌦、1978年25億㌦、1979年(10ヵ月間)40億㌦と新規発行が相次ぎ、1979年10月末現在残高約70億㌦にまで拡大した。

 また、1977年11月、ユーロFRCDに遅れること半年で発足したシンガポールFRCD(下の墓石広告参照)もシンガポール通貨当局のアジアダラー市場育成政策により、着実に成長、1979年10月末現在、発行残高8億4,000万ドルに達している。

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 このほか、米国、香港、バーレン、クウェートなど、まだ規模的には上記二発行市場には及ばないものの、世界各地の国際金融市場においても、FRCDは金融商品としての地歩を固めつつある。

(4)販売市場の拡大

 FRCDは額面が通常50万㌦から100万㌦と大きいことから投資家の大部分は機関投資家である。なかでも、金融機関の占める割合はきわめて大きく、全体の8割以上と推測される。

 特に米国地方銀行、保険金社のFRCD投資意欲は高く、ユーロFRCDの場合、全体の7割、シンガポールFRCDの場合、全体の5割近くが、米国投資家に販売されているものと推定される。

 このほか、おもな販売市場としては欧州の銀行、トラストファンド、大手企業などのほか、中近東が挙げられる。中近東の場合、FRCD創設期においてはFRCD投資に消極的であったが、昨年央以後、急速に関心を示し始め、FRCD販売市参の拡大、投資家への浸透は急速なピッチで進んでいる。

5.今後のフローティング・レートCDの課題

 以上に述べたごとく、FRCDは開発後2年半余りのうちにユーロドル市場における主要商品としての地位を確立、すでに一応の成熟段階に達している。

 しかし、発行銀行の大半を占める邦銀の資金調達力充実という観点からのFRCDに課せられた使命は依然として重く、今後のイノベーションにまつべき課題も数多く残されている。

 これら課題を要約すれば、以下述べるごとく(1)FRCD期間の一段の長期化実現、(2)FRNとの相互補完性の追求、および(3)わが国国内CD市揚へのFRCD導入の3点に集約されよう。

(1)一段の期間長期化

 FRCDの金融商品としての使命がフローティング・レート資金の長期調達・長期投資にある以上、その期間の長期化は発行銀行、投資家双方の利害が合致する当然の帰結である。幸い、ロンドンにおいて発行されるユーロFRCDについては従来、外貨建CDの最長期間を5年に限っていた英国為替管理法が撤廃され、法制上の制限は一応なくなった。

 邦銀の中長期シンジケート・ローンの貸出期間が10年、あるいは12年と長期化している現在、外貨資金調達においても、それに見合う長期化を図ることが肝要であり、この点から、一段長期のFRCD実現が大いに望まれる。

(2)FRNとの相互補完

 FRN、FRCDともにフローティング・レート資金の長期調達手段である点、その機能は同一である。 その相違は、FRNが大衆投資家を含む多数の債券投資家を対象とし、小額面(通常1,000ドル、最高1万ドル)、詳細な書類準備(発行目論見書、社債条項等)、証券取引市場への上場を必要とするのに対し、FRCDは金融機関を主体とする機関投資家を対象とするため、高額面および定型化された簡単な書類で十分である点にある。

 すなわち、機動性、弾力的、簡便さにおいてはFRCDが優れている反面、広な資金調達源の確保という点ではFRNがFRCDを凌いでいる。したがって今後は外貨長期資金の安定的確保の見地から、いずれか一方に偏することなく、FRCD、FRN双方を状況に応じ、弾力的に使い分けることを可能ならしめることが肝要である。現に米銀の中にはシティコープのごとく、期間3年ないしは4年半のFRNを大量に発行するところも現われており、市場においても、FRCDとFRNとの実質的な差異は消滅しつつある。さらに最近のクエート市場では同国地場のガルフバンクが8%の固定レートノートへの転換権付きの4年物FRCDが発行するに至り、FRCDとノートとの同質化が一段と進んで来たのは注目に値する。

(3)わが国へのFRCDの導入

 わが国の国内CDは国内金融市場の特殊事情を反映してユーロCDのごときまったく自由な流通性は有しておらず、また期間も短期のものに限定されている。真の意味でのCDたりうるためには特に前者の是正が必要であるが、同時に金融市場の効率化、自由化のためには、期間および金利設定方式についての制限撤廃が必要であろう。 

 わが国CD相場へのFRCD導入はこれら条件が満たされた後、初めて可能となるが、先に述べたFRCDのもつ発行銀行、投資家双方にとってのメリットをわが国銀行、投資家が享受しえないのはきわめて残念である。東京市場がユーロ市場は別格としても、すでにFRCD導入を実現しているニューヨーク、シンガポール、香港などの金融市場になるべく早くキャッチ・アップすることが望まれる.

 当初、邦銀FRNとの競合が懸念された5年物FRCDが都銀、長信銀の区別なく、邦銀すべてに浸透、邦銀全体がそのメリットに均霑している事実を目のあたりにするとき、資金調達の分野にいわゆる都銀・長信銀の垣根論を持ち込むことの不合理さを痛感せざるをえない。

 われわれとしては邦銀全体の要請に応えて、自ら開発したFRCDの発展を見守りつつ、今後とも一層のイノベーションに力を注いで行きたいものと念願している。

(住友ファイナンス・インターナショナル社長 岡部陽二)

おかべ・ようじ  昭和9年東京都生まれ、32年京大法卒後、同年住友銀行入行。国際金融部次長、国際業務部副部長、東京営業部副部長など歴任。昭和51年から現職(在ロンドン)。 

 (1980年1月発行、東洋経済新報「金融と銀行・1980新年特大号・国際金融特集」136~142ページ所収)

 

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