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キプロス金融危機を考える

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31516日に行なわれたユーログループ会合で、キプロスの金融危機支援のために要する158億ユーロのうち、100億ユーロ(1.3兆円)をヨーロッパ中央銀行(ECB)と10%を分担するIMFがキプロス政府にに緊急融資することを決定した。

その融資条件として、キプロスの銀行預金者に10万ユーロ(約13百万円)超の預金には9.9%2万ユーロ超には6.75%の税率で一律課税することにより、残余の58億ユーロを調達することをキプロス政府に義務づけた。

ところが、この案は319日に開かれたキプロス議会で否決され、再交渉の結果、最終的には10万ユーロを超える大口預金について最低20%、詳細は不詳ながら最高は80%の高率課税(一部は預金から株式への転換)で325日に至り決着した。そもそも、ユーロ圏にある銀行の預金は10万ユーロまで預金保険でカバーされているにもかかわらず、2万ユーロ以下を除いて一律課税した当初案が理不尽であったとの解説が専らであるが、法律的には預金保険カバーと資産課税は無関係である。当初案はドイツなど北欧諸国の主張との見方もあるが、ロシアの富裕層からの大口預金を利するべく、キプロス政府が広く薄い課税を提案したとする見方が妥当であろう。

ECBIMFからの100億ユーロの支援とは別に、すでにロシアからは昨年6月に25億ユーロの融資を受けており、今回は当初約定の返済期限2014年を2022年まで延長することにロシア側が合意したものと伝えられている。

キプロスはトルコの南の地中海に浮かぶ人口87万人、四国の半分ほどの島国ながら、観光と金融でギリシャを凌ぐ経済発展を遂げてきた。

1960年に英領から独立したキプロスでは、1974年にギリシャ併合強硬派によるクーデターを機にトルコ系住民との間で国内紛争が起こり、これにトルコが軍事介入した。その結果、トルコが占領した東北部(国土の37%)が北キプロス共和国として分離独立を宣言した。もっとも、北キプロスを国家として承認しているのはトルコ1ヵ国のみである。

南北国境線には国連軍が常駐し、国連の仲介により再統合交渉が模索されてきたが、未だに解決を見ていない。筆者が北キプロスに足を踏み入れた1980年代には、風光明媚な北側海岸線を有する北が富裕であったが、2004年のEU加盟後は南の経済が急速に発展し、現在では1人当りGDPで南の方が北の3倍に達している。

南キプロスには、地場の商業銀行としてはBank of Cyprus GroupLaiki Bank Group(Popular Bank)2行しか存在しない。ほかに外銀8行と信用金庫、住宅金融専門の金融機関がある。Bank of Cyprusは、創業110年、証券・保険も兼営、総資産337億ユーロ、12,000名のスタッフを擁して営業拠点595店舗(うち国内143店舗)をギリシャ・ロシア・ウクライナなど数カ国で展開する国際的な銀行である。

 地場2行はギリシャ危機発生までは健全経営を誇ってきたが、両行ともに大量のギリシャ国債を保有し、ギリシャ企業への貸金も多額に上ったことから、一昨年に赤字に転落、Laiki Bankは昨年6月に実質国有化された。損失の主体は、保有していたギリシャ国債の債務削減による償却損である。

経済規模ではEU全体のわずか0.2%にも満たないキプロスの銀行破綻が、半月にわたって国際金融界を騒がせた。その主因は金融危機の救済に当って、①株主だけではなく、銀行のステイク・ホールダーである預金者の預金債権切捨てを条件とした目新しい手法が衝撃的であった点にあるが、加えて②キプロスの銀行の資産規模をEU全体の平均並みに縮小すること、③政府債務はGDP100%以内に抑えることが条件となっている点はあまり知られていない。以下に、これらの諸点について考察する。

1、破綻銀行の預金者への負担強制

 金融機関の不良債権処理に際し、これまでの銀行救済では株主の責任を問うだけで、最大の債権者である預金者の預金債権は全額保護されてきた。政府や企業が破綻した場合には国債の保有者や貸金債権者の債権が切り捨てられるのに対し、預金者だけを例外扱いする根拠は詳らかでない。

キプロスのケースでは、預金者の過半が外国人で、しかもEU外のロシア人が3割程度を占めている。この事実を捉えて「ドイツ人の税金で、ロシア人の預金を救済することは承服できない」といった感情的な発言が紹介され、今回は「例外扱い」として預金債権に手を付けたと報道されているが、そうではない。現に、EU委員会で検討中の銀行の破綻処理に関する法案では、10万ユーロ以上の預金を銀行の不良債権処理に使うことを検討中である。これは、EU以外の国の銀行救済においても採られるべき当然の対処法であろう。


2、銀行資産規模をEU全体の平均並みまで縮小

 キプロスの全金融機関の総資産規模は別表に示したとおり外銀を含む全行でGDPのほぼ8倍、国内銀行だけでも5.6倍と大きい。キプロス内の金融資産はせいぜいGDP3倍程度であるから、銀行資産の過半は明らかに国外から持ち込まれたものである。

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キプロスはEU内の金融オフショア・センターを指向して、法人税率を10%に引下げ、配当や利子課税をゼロにするなど、外国からの資金誘致を国策として進めてきた結果、最大手のキプロス銀行一行の資産がGDPのほぼ2倍に膨らんでいる。キプロス全体の銀行資産規模をEU平均の3倍にまで落とすにはLaiki Bankを破綻処理するだけでは足りない。一国の銀行総資産規模をGDP3倍程度に抑えるという規制は今後のスタンダードとなり、金融立国というビジネス・モデルはますます困難となる。EU内にタックス・へヴンを認めないのは当然の成り行きであろう。


3、政府債務はGDP100%以内に抑えること

 今回のキプロス支援で、総額が100億ユーロとされたのは、キプロス政府の公的債務比率をGDP100%内に留めるには、既存債務が70億ユーロあるので、100億ユーロが限度と判断されたものである。EU発足時の条約ではGDP60%が公的債務の限度とされていたが、ほとんどの加盟国がこれを守らなかったため、現実を踏まえて100%としたものであるが、公的債務の対GDP比規制の再強化はEUの基本方針である。わが国の200%は論外ということになる。

 もっとも、この問題は銀行同盟が設立されて、ECBから破綻銀行に直接資金注入が行なわれるようになれば解消するが、同時に個別銀行に対する資産規制は一段と厳しいものになろう。

(岡部陽二:元住友銀行専務取締役、元広島国際大学教授)


201351日、外国為替貿易研究会発行「国際金融」第1248p4041所収)

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