(Inside the FED: Monetary Policy and its Management, Martin through Greenspan to Bernanke、ステファン・H・アキシルロッド著、田村勝省訳、一灯舎刊、オーム社発売、本体2,000円
著者のステファン・H・アキシルロッドは、1952年にFED理事会のエコノミストとしてスタートして、とんとん拍子で昇進、ディレクターとしてあらゆる重要な会合に出席し、議会証言なども行なった。1986年にFED退職後は、日興証券インターナショナルの副会長に就任、米国の金融政策をFEDの外から具に観察し続けた。
本書は、このように米国FEDの歴代議長にもっとも近い側近として活躍した著者が、米国の金融政策がいかに作られていかに実行されてきたか、その際に議長や各理事の能力や個人的性格がいかに政策決定に影響してきたかを詳細に語ったユニークな物語である。ニクソンショック、プラザ合意、ボルカー議長時のインフレ対策、金利重視から量的規制への転換、LTCM破綻時の対応などに当りFEDがとった対応、その際に裏方として苦労した秘話も語られている。難しい金融理論や用語は避けて、エッセー風に気軽に読めるように工夫されているのはありがたい。
改めて驚くのは、1951年から今日まで60年間にFEDの総裁は、マーチィン、バーンズ、ミラー、ボルカー、グリーンスパン、バーナンキと僅か6名の総裁が平均して一人10年以上務めていることである。この間に大統領は12人、日銀総裁は13人が替わっている。
著者の歴代総裁評はきわめて控え目で、感情を抑えているが、やはりボルカー総裁の卓越した手腕への高い評価が行間から読みとれる。「ボルカーの8年間に米国の金融政策はパラダイム・シフトと言える大転換で劇的に変化し、ボルカーの芸術とも言えるパーフォーマンスによって高められた」と手放しで称賛している。改革を断行したのは、偏にボルカーの決断力と実行力によるが、性格的にはきわめて内気で自信がなさそうに見えたとも述懐している。筆者も1982年に当時勤務先銀行の副頭取に随行して、ワシントンでボルカー総裁と単独会談に臨んだことがあったが、2米を優に超す長身で寡黙の人という印象だけが残っている。
グリーンスパンについては、直接的な批判は避けているものの、LTCM危機を抑え込んだ手腕などは評価しつつも、90年代の株式や不動産市場のバブルに気付きながらも放置し、2000年以降も緩和政策をとり続けた姿勢には疑問を呈している。「市場のことは市場に任せておくのが最良で、規制はほとんどいつも物事を大失敗に導く」といった彼の市場観に問題があったことは間違いなさそうである。
本書は2008年初に書き上げられ、リーマン・ショックはカバーしていないが、この時点で大金融危機の到来をほのめかしている。バーナンキについては、とにかく総裁就任のタイミングが悪かったと同情的である。折しも、本年4月に出版されたディビッド・ウェッセル著、藤井清美訳の「バーナンキは正しかったか?FRBの真相」(朝日新聞出版)を、東洋経済誌が経済書ベスト20のトップに選んでいる。両書を併せ読めば、FEDの歴史と今をすべて知り得よう。
(評者 岡部陽二 医療経済研究機構専務理事)
(2009年9月1日付け(財)外国為替貿易研究会発行「国際金融」1216号p31所収)