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<投資教室>円安・実質円金利安下の外債投資

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リーマン・ショックや東北大震災の直後、さらに遡ると1997年から98年に掛けての金融危機時など、日本が困った時に、強烈な「円高」が起こり、それが長期化して日本経済を苦しめてきた。同時に、日本株は売られた。

一方、昨年末からのアベノミクスによる異次元金融緩和では、外為市場で円は売られ、日本株は買われて、「円安」「株高」が同時に実現した。外国人投資家は7月まで10ヶ月連続で日本株を10兆円ほど買越しているので、外為市場では10兆円の円買い要因となり、その限りでは、円高となって当然である。ところが、現実にはこの間に円安が一段と進行しているのは、どうしてであろうか。この問題を考えてみたい。

国際収支構造の急激な変化

 昨年まで最近5年間の国際収支は、表1にみられる通り、輸入超による貿易収支の赤字化により「経常収支の黒字は4.8兆円と1/3以下に激減した。一方、資本収支は外国からの対日投資(日本株の買越)にもかかわらず、赤字基調が続いている。

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併せて昨年の総合収支は▲3.4兆円の赤字となり、外貨準備も同額減少した。円高下で日本からの外国証券への投資が進まなかったため、この程度の資本収支赤字に留まったものの、2010年には対外証券投資がネットで25.8兆円の買越しとなっており、国内の資金余剰増から判断して資本収支の赤字幅はさらに拡大してもおかしくない。

このような国際収支の赤字構造から判断する限り、そもそも昨年から地合いは円売り基調に転換しており、円高の更新は考えられない。外為市場で円ドル相場を動かす原動力はもはや経常収支ではなく、資本収支が主体となっているからである。

資本収支の主体は、外国人による日本株や日本国債への投資と日本の企業や投資家の外国証券投資であり、直接投資や外貨準備の増減はマイナーな存在である。外国人は日本株だけでも100兆円ほど保有しているが、証券投資全体で見ると、表1下欄に掲げた通り、124.6兆円の日本側資産超である(全体では純資産;約300兆円)。

したがって、外為市場で円ドル相場を動かす需給の主体は、日本の企業と投資家であって、外国人ではない。金融危機や大災害時には、日本企業などが国内の手元資金を厚くすべく、外国に置いている外貨資産を売却して円転を急ぐ結果、円が強くなる。アベノミクスで円安期待が強まると、外貨資産をすぐには円転せず、逆に買い増している結果、さらに円安となる。

加えて、2000年以前には見られなかった株安と円高が連動し、株高と円安も共振する現象が最近になって顕著となってきた。日経紙から借用した図1によれば、最近数年間は株価と為替相場がきれいに連動している。日経紙はその理由をいくつか挙げているが、①円安時には輸出企業の収益改善期待で株式も買われること(円高時にはその逆)、②ヘッジファンドがこの連動性に着目して、「円安時には日本株買い」という株式と通貨を組み合わせた機械的な取引をしている、といった説明は納得できる。

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日銀の異次元緩和による実質円金利の低下

 アベノミクスの柱は、日銀が供給するマニタリーベースを年間60~70兆円(2年間で2倍)に増やすことなどにより「2%の物価安定目標を2年程度の期間で実現すること」にある。マニタリーベースを増やせば、国内の名目金利は上昇しないものの、予想物価上昇率が上がることによって「実質金利」は下落する。

図2に示したように長期金利の下落と消費者物価のマイナスからゼロ近辺への緩やかな上昇は過去4年ほど続いているものの、昨年末時点での実質金利はプラス1%程度であった。これが本年6月時点では、10年物国債利回り0.85%、予想インフレ率1.3%で、実質金利は▲(マイナス)0.45%まで低下している。日銀の目標通り2%のインフレが実現すれば、国債金利1%でも、円債の実質金利は▲2%にまで下がる。

一方、米国の長期国債金利は5月初旬に1.5%であったものが、バーナンキ総裁の超緩和からの出口検討発言を受けて8月初現在2.5%前後の水準となっている。この結果、日米金利差は大きく乖離し、高金利の米国債買いが起こっている。超緩和でだぶついた資金の行先は外債買いが主体とならざるを得ない。日銀の金融超緩和策は当面継続されるので、中長期的には緩やかに円安が進むのは間違いなかろう。個人投資家としても、米ドル、豪ドル、ユーロなどの外債投資に目を向ける秋である。

日本個人投資家協会理事 岡部陽二)

(2013年8月8日、日本個人投資家協会発行、月刊機関誌「きらめき」20113年8月号所収)

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