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<投資教室>寄付文化の国際比較

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 日本の寄付金額は米・英などの先進国もとより、新興国と比べても格段に小さく、これが社会格差の拡大を助長している面もあると指摘されている。なぜ、日本ではこれほどに寄付文化が発達しないのか考えてみたい。

寄付金額の国際比較は統計データの制約から難しいが、対GDP比で世界36ヵ国の比較を試みたジョンズ・ホプキンス大学の研究が参考となる。この研究を集約した図1によると、米国が突出して多く、日本は36ヵ国中29位と少ない。もっとも、ドイツ・イタリアなども日本より少なく、国の経済規模との相関は見られない。

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これを、寄付の主体別に日・米・英で比較すると、日本では法人の寄付の比率が64%と高く、個人は36%に過ぎない。これに対し、米国では個人が76%、英国でも60%と、両国ともに個人の寄付が過半を占めている。個人の寄付実額では、年間成人一人あたり平均、日本;2.5千円に対し、米国;13万円、英国;4.0万円と、日本は米国の1/50、英国の1/16と大きな開きがある。

米国の一人当り平均の年間13万円は驚異的に大きいが、これはビル・ゲイツとかウォーレン・バフェットといった超富豪の存在が大きい。両氏が2010年に立ち上げた資産の1/2以上を寄付することを公に表明する「ギビング・プレッジ」という社会貢献キャンペーンに対して40人以上の富豪が参加、寄付総額20兆円に達している。

このように大規模な寄付活動がある一方で、米国には1991年にニューヨークで始まって全米に広がった「ペニーハーベスト」といったフィランソロピー運動もある。これは小学生らが1セント・コインを集めてNPOに提供するもので、毎年トラック数十台分のコインが収穫され、募金総額は2010年に680万ドル(約6億円)に達した。

 億万長者というと、もっぱら米国の企業家や投資家といったイメージが強いものの、日本は米国に次ぐ「お金持ち大国」である。World Wealth Reportによると居住用不動産を除いた総資産額が100万ドル以上の日本の富裕層は約165万人、全世界の10%を占める。大多数が高齢者である彼らの資産はまさに死蔵されて社会の役に立っていない。これを活性化させるには、どうすればよいかが課題である。

 国全体としての個人資産の規模には日米間に大差はないにもかかわらず、一人あたりの寄付額に50倍もの大きな差があるのはどうしてであろうか。理由として、「文化の違い」と「税制の違い」が指摘されている。

文化の違いでは、お金を持っている人は貧しい人に分け与えるべきであるとするキリスト教の助け合いの精神や活発な教会の活動が指摘されている。ただ、この説明には、他の宗教でも助け合いは強調されているとの反論もあり、キリスト教国の元祖であるイタリアやドイツなどでの低い寄付意識と矛盾する。

やはり、民主主義の先進国である米国や英国においては、政府による弱者救済(公助)の前に、助け合いにしても民間でできることは民間でやるという共助の精神が横溢しているから、と理解すべきではなかろうか。

米国ではこのような国民の共助活動を政府が積極的に支援すべきとの観点から、税制面においても、寄付金への課税を免除する非営利セクターを広範に認めている。日本では、貧困者の救済や文化活動の支援などは民間でやることではなく、政府が税金を徴収して公助として行なうべきであって、民間の非営利活動に対する税金の免除は例外的にしか行なわない制度が確立しており、国民もそれを是としている。

日・米・英の寄付金優遇税制を対比すると表1のとおり。所得控除できる限度が米国では所得の30%50%と高いのに対し、日本は20%と低いが、この点は大きな障碍ではない。問題はこの限度ではなく、①寄付をすれば所得控除できる「寄付金優遇対象団体」が極端に少ないこと、②免税適用を受ける条件がきわめて厳しいこと、③寄付をすれば、別途確定申告をしなければならない手続きの煩雑さである。

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 日本の寄付金優遇対象団体数は米国の
1/50と少ないだけでなく、上位20団体の資産総額で見ると、米国の11兆円に対し、日本は1兆円、年間の助成額は米国の8,072億円に対し、日本は281億円と少ない。日本では新規の助成団体認可数も数団体と極端に少ない。これには設立認可基準の大幅規制緩和で対処すべきである。

手続き面においては、①個人がチャリティー団体に寄付をした場合、個人所得税を軽減するのではなく、税務当局が免税額をチャリティーに給付する「ギフト・エイド」、②給与の一部を天引きでチャリティーに寄付できる「ペイロール・ギビング」といった工夫を凝らした英国の制度を採り入れるのが有効である。

日本個人投資家協会理事 岡部陽二)

20121215日、日本個人投資家協会発行月刊誌「きらめき」201212月号所収)

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