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<投資教室>スペイン金融危機の実像

マドリッド中心部に聳えるバンキア本社ビル

 ユーロ圏財務相は6月9日、EU内で経済規模第4位のスペインの銀行を救済するために最大1,000億ユーロ(約10兆円)の資金を用意することを決定、欧州債務危機はギリシャからスペインに飛び火した感がある。

 この資金は、EUからスペインの個別行に注入されるのではなく、7月から稼働を始める「欧州安定メカニズム(ESM)」からスペイン政府を経由して注入される。これで、当面の流動性危機は免れるものの、この間接注入方式では、この資金を返済するためのスペイン国債増発に繋がりかねない。市場では、この懸念からスペイン国債が嫌気売りされ、利回りは危機ラインと言われる7%を超えた。

 この状況を見て、6月14日に米格付け会社ムーディーズはスペイン国債の格付けを投資適格ぎりぎりのBaa3まで一気に3段階引下げ、つれて25日には銀行の格付けも引下げられた。このような悪循環の連鎖を断ち切るのはどうすればよいか。EUは対応に追われている。

 スペインの金融危機は銀行の放漫経営に起因した銀行の資産過大化に根差している点、金融資産が異常に膨らんでいる他のEU諸国とも共通点が多い。

 EU諸国の銀行資産規模をGDP比で見ると、表1のとおり2.6倍と、日本の1.6倍と比べると6割ほど多い。さらに、銀行の預貸率は表2に見られるとおり、軒並み130%を超えており、預金に加えて市場から調達した資金で貸金を増やしている。このように高い預貸率はスペインの銀行だけではなく、欧州の銀行全般に共通しており、邦銀の預貸率70%程度とは対照的である。

表1、欧州主要国のEU内総銀行資産とそのGDP割合(2009年、単位:10億ユーロ)

 スペインの銀行業界は、商業銀行グループと貯蓄銀行グループに二分されている。外銀のシェアは10%程度と小さい。かつてスペインにはビルバオ銀行、バネスト銀行、サンタンデール銀行など8行が大手行として君臨してきたが、1999年に相次いで大型合併が行なわれ、同年末には表2に掲げたサンタンデール銀行、BBVA銀行、ポピュラール銀行の3行に集約された。この3行で、スペインの総銀行資産の7割、国内市場だけでは5割を占めている。ほかに中小商業銀行が100行近く存在する。

表2、スペイン大手5行の資産・収益構造(2011年、単位:10億ユーロ)

 サンタンデール銀行は総資産の60%、BBVは70%を海外資産が占めている。サンタンデール銀行の海外業務は中南米諸国で重点的に展開され、BBVAの資産は国内、EU、中南米で1/3ずつに分散されている。両行ともに海外業務で高収益を挙げており、厳しいストレス・テストにも耐えて、今回の公的支援の対象にはならない見込みである。

 問題はスペイン銀行界の1/2を占めるカハ(Caja)と呼ばれる貯蓄銀行にある。カハの起源は地域に根差した協同組合組織で、地方自治体の管轄下にあったため、合併も進まず、2000年には45行が並立していた。政府はこれを7行に集約する方針で、本年中には実現の見込みである。今回、公的支援の目玉となっているバンキアは2008年に、Caja de Madridを中心に3行が合併して誕生したばかりの銀行で、合併時にも公的資本30億ユーロを受入れており、すでに実質公的管理下にある。

 このバンキアとカイシャの2行が、それぞれ貯蓄銀行全体の20%程度を占め、今回の公的支援の中心となるが、それ以外の中小行も上記の2大商銀を除くほとんどが公的資金の注入なしでは生き残れないものと見られている。

 住宅ローンや商業用不動貸付に特化した貯蓄銀行の業績悪化の原因は挙げて、不動産バブルの崩壊後急落を続けている不動産価格にある。図1に見られるとおり、2000年から08年にかけて住宅価格は2.4倍に急騰、これをピークに下落に転じ、2011年の下落率は▲11.2%、本年は▲20%に達するものと見込まれている。これを反映して、銀行の不良債権比率は8%を超え、不動産貸金についてはこの比率が20%を超えたので、政府は引当率を45%にまで引上げるように銀行を指導している。

図1、スペインの住宅価格と不良債権比率推移


 スペインの不動産バブル狂騒に加担し、巨損を喫したのはスペインの地場銀行だけではない。ユーロ通貨圏内では、資本移動は自由化され、為替リスクも無くなったので、独仏などの銀行もスペインへの投融資を競って増やしてきた。

 その結果発生した不良債権を早期に処理すべくEUが今やるべきことは、①EU域内銀行の規制・監督・預金者保護を共通の基準で抜本的に強化すること、②銀行の救済にはEUから直接資金を投入する、③そのための資金調達はEU共同債の発行で賄うなど、EU統合を一段強力に進める以外に妙案はない。①と②については、6月28・29日に開かれたユーロ圏首脳会議で合意に達したが、③についてはドイツのメルケル首相が断固反対している。共同債の償還には、フランスのオランド新政権が打出した金融資産に対する新たな課税も避けては通れないが、今後の課題として残された。

日本個人投資家協会理事岡部陽二)

12年7月13日、日本個人投資家協会発行月刊機関紙「きらめき」2012年7月号所収)

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