2月8日付けの毎日新聞朝刊は「東電:実質国有化へ、政府、公的資金1兆円注入」と一面トップで大きく報じた。東電は否定しているが、このような成り行きがきわめて現実性の高いシナリオであることは疑いの余地がない。原発事故にかかる災害補償の資金は「原子力損害賠償支援機構」からの支援で何とか目途が付くとしても、廃炉処理に要する1兆円を超える資金は電気料金の大幅値上げをしない限り賄いきれないからである。
時を同じくして、今年度の東洋経済「高橋亀吉記念賞」が長山浩章京都大学教授の論文「日本型電力事業再編の提案」に授与された。この研究は、①発送電分離、②地域分割の廃止、③全面小売自由化の施策を3段階に分けて電力再編の工程表を具体的に提示し、この電力再編が経済成長の起動力になるとする意欲的な提言である。
電力業界再編の大前提として、わが国の電力料金は、原発事故前においてすでに米国の2倍、韓国の3倍と高い水準にある原因を詳しく分析し、国際競争力のある産業に転換する方策を打ち出すことが肝要である。電力料金値下げの目標値を示すことで消費者の理解が得られ、電力株への投資家にも投資判断の材料となるからである。
1、高い電力料金
まず、東電をはじめとするわが国の電力料金は他国に比べてどれくらい高いのであろうか。本年8月に資源エネルギー庁が公表した「電気料金の各国比較について」から米・英・韓国との2009年度の比較を図1として転載した。
これによると、日本の1kW時の家庭用電力料金は22.8セント(26.2円、同年の平均相場1ドル=93.57円で換算)と米国の約2倍、韓国の3倍となっている。価格の国際比較は為替相場の変動に大きく左右されるが、その後の円高により、現在ではこの格差はさらに拡大している。
韓国については10月24日付けの「日経ビジネス」が「電力料3分の1の秘密」と題した特集記事で詳細に分析している。韓国では官営の電力公社が統括しているが、発送電は2001年に分離、発電は6社の子会社と独立系を含む民間発電会社から電力取引所を通じて競争入札で調達している。
東電の経常経費を分解すると、総経費約5兆円(平成22年度、単独)のうち、人件費は4,300億円と総経費の9%を占めるに過ぎない。石炭・ガス・原子力などの燃料費は、近年の価格高騰により1.5兆円に膨らんでいるが、それでも30%を占めるに過ぎない(かつては15%程度であった)。残りの60%強が償却を含む設備関係費(33%)とその他経費(28%)で、これが極端に高い電力料金の元凶となっている。
設備の購入に競争入札はほとんど行なわれていないうえ、下請け業者への支払いなどもきわめて寛大と推測される。原発立地確保のための1件数十億円もするサッカー場や文化施設の寄付、オール電化推進の広告代、ワシントン・ロンドン・北京事務所の経費などなど、この膨大な「その他経費」の中身まさに伏魔殿である。これは、使った費用はすべて消費者に転嫁できる「総原価方式」の当然の帰結である。
2、電力会社の高給与
枝野経済産業相は9月26日に行なわれた原子力損害賠償支援機構の開所式で、「東電の役員報酬や社員の給与について、公務員や独立行政法人と横並びで当たり前」と述べ、徹底的なリストラが不可欠との認識を示した。
至極当たり前の発言と受け止めたが、米倉経団連会長が直ちに「要求があまりにも一方的だ」と枝野大臣を強く非難したのには違和感を覚えた。経団連としても、国際的に見て法外に高い電力料金の大幅引下げと、その一助としての人件費カットを電力会社に要求するのが筋である。
電力会社の月間平均給与は表1のとおり男性は金融業に次いで高く、女性は全産業のなかで際立って高い。平均給与は職種により勤続年限や平均年齢によって差がつくものの、電力は全産業平均より3割ほど高く、国家公務員の340万円、地方公務員の346万円よりも3割以上高い。
電力会社のように公益性が高く、販売価格が公定されている企業の給与をどのように考えるべきか。参考となるのは、同様に公益性が高く診療報酬(医療費)が公定されている病院の給与である。全国公私病院連盟の統計(2010年)によれば、自治体病院の常勤職員の月間給与457百万円に対し、民間病院は380百万円と公的病院よりもかなり低い。病院業界とは逆に、民間電力会社の給与が国家公務員や独立行政法人よりも3割も高いのは、やはりどこかおかしい。
診療報酬の総額は内閣府で決定され、細目は中医協の審議を経て、厚労省で公定される仕組みとなっている。この中医協の場では医療提供側と消費者(患者)側を代表する同数の委員間で激しい論議の応酬が展開されている。これに対し、電力料金などについて経産省からの諮問に応えて審議をする電気事業審議会の委員は、20名中消費者代表は主婦連合会代表1名のみで、有識者も2名と少ない。残りは東電や関電の会長、これを支える産業界の代表が大多数を占めており、被告が裁判官を務めている観である。公定電力料金の決定に当っては、せめて診療報酬並みの客観的で公平な審議システムが確立されなければならない。審議に当っては、費用の中身をすべて吟味し、審議内容を国民に公開することが最低限必要である。
(日本個人投資家協会理事 岡部陽二)
(2011年12月15日発行、日本個人投資家協会月刊紙「きらめき」2011年12月号所収)