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<投資教室>税制改正についての提言

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 当個人投資家協会では、10月20日に長谷川慶太郎理事長名で「個人投資家の配当と株式譲渡益にかかる税制改正についての提言」を発出、与党税調、政府税調、財務省、金融庁など関係筋に働きかけを行なった。その骨子は次の通りである。

(1)上場企業の配当にかかる源泉課税については、企業の国際競争力強化と二重課税回避の観点から、恒久税制として無税とする。

 上場企業にとっての資金調達コストは、社債等を含む借入コストが年1.6%程度、配当コスト(配当支払総額÷自己資本の総額)が年1.8%程度と推測され、表面上は大差がない。ところが、配当は法人税40%弱を支払った後の税引後純益から行なわれ、さらに支払時に現在では10%の源泉課税が行なわれるため、株主のネット手取り配当1万円を支払うには、2万円の経常利益計上が必要となる。この結果、自己資本の実質コストは借入れコストの2倍以上となっている。 

 配当に対する二重課税については、かねてから議論されているところであるが、法人段階と株主利益段階の課税を一体として捉える必要がある。前者を40%から30%へ引下げ、後者を10%から20%に引上げるのであれば、配当を行なっている企業の負担はあまり変わらないものの、配当重視の優良企業に対する逆インセンティブとして働くおそれがある。この際は、法人税率の引下げよりも、配当企業・個人株主双方にプラスとなる配当課税を10%から0%に引下げる改正が望まれる。 

 配当二重課税問題については、これを完全に解消している国は少ないものの、欧州では、二重課税を回避する方法として、インピュテーション方式をとる国が多い。企業が既に支払った法人税も個人株主への配当に回ったとみなし、受取配当に対応する法人税額を個人投資家の所得に加えて所得税額を計算し、その上で、この所得課税から先に加えた法人税額を改めて差し引くという仕組みである。この方法で二重課税を完全に解消しているのはフランス、一部解消しているのは英国である。

 配当課税の全免は「金持ち優遇」につながるとの批判もあるが、現行税制でも、一社の発行済株式総数の5%以上を保有する大株主への配当は、総合課税の対象となっている。これを拡大して、たとえば、年間受取配当額合計が10百万円以上の個人株主への配当については、20%の源泉課税を行うといった制度の導入は検討に値しよう。

(2)上場株式の譲渡益課税については、他の金融商品果実との損益通算拡大などを盛り込んだ金融商品一体課税が実現するまでの間、現行の税率10%を継続する。本則の20%に戻す場合には、損益通算の期間を現行の3年間から6年間に延長する。

 政府がスローガンとして掲げている「貯蓄から投資へ」の誘導策は、現金や預貯金の形で眠っている個人の金融資産を株式市場へ向かわせ、わが国の経済成長力を高めるのに役立つものと受け止められてきたが、現実にはこのような投資への動きは一向に進捗していない。

 サブプライム問題で株価が急落し市場が一段と冷え込んでいる状況下で、税率を10%から20%へ引上げることは、政府が掲げたスローガンに矛盾するものであり、一段と個人の株式への投資意欲を萎縮させるものと懸念される。

 長期的には全金融資産についての一体課税を否定するものではないが、損益通算の範囲が極めて限定的である現状下においては、リスクの高い株式投資については10%の軽減税率の継続が不可欠である。

 金融資産についての一体課税に当たっては、当然のことながら、預貯金だけではなく、金融商品取引法が対象とするすべての金融商品の譲渡損益について同率一体課税とし、現行の倍の6年間程度の損益通算期間が認められるべきである。

 なお、個人投資家は投資活動を行ために複雑な金融商品を勉強したり、情報資料を買い整えたりする負担を強いられるので、申告分離課税となる金融所得についても、年間50万円以下の証券等譲渡益については無税とする措置が望まれる。これは所得を得るための費用実費として所得からの控除が認められている個人所得税における給与所得控除(最低65万円から年収の5%+170万円まで)に照合する費用的性格のものである。

(3)09/10の二年間の優遇税制は廃止し、個人の資産形成を支援する見地から、個人の年間投資額2百万円までの金融資産(株式のみならず、投資信託、国債、社債、預金、MMFなどすべてを対象として合算)新規購入・預入についての配当課税・利子課税・譲渡益課税をすべて免除する「少額投資優遇口座制度」を創設する。

 金融庁が、下表のように伸長著しい英国のISAに倣って、個人の投資家層拡大のために創設を要望している①1百万円といった一定限度までの少額株式投資についての配当金を非課税とする「証券マル優制度」と②65歳以上の高齢者投資家に対し、株式・投資信託について年間5百万円以下の譲渡益、1百万円以下の配当金にかかる税金をゼロにする「高齢者投資非課税制度」は、すでに複雑な証券税制をさらに複雑にするだけでなく、地方税・社旗保険料などの負担増や配偶者控除の不適用などの不利益につながる懸念もある。また、高齢者の株式と投信投資のみを優遇するのは納得性に欠ける。

 一方、英国では本年4月からISA(Individual Savings Accounts)を簡素化し、年間£7,200(約150万円)までの株式投資の配当・譲渡益にかかる税金を全免する(うち£3,600までは預金などの金利課税免除枠に転用可)制度に一本化している。このISA口座は、成人一人が一金融機関にだけに限って開設でき、一年間は他の金融機関に移せない。

 個人投資家が望んでいることは、本年9月8日付け日経紙「クイックアーベイ」にも見られるように、「証券税制の簡素化」であり、わが国でも、このような株式投資免税口座を創設するのであれば、成人一人一口座に限り年間の投資額に限度を設けて、配当・譲渡益にかかる税金は全免する簡明な方式とすべきである。 081101ZeiseikakakuHyou.jpg

(日本個人投資家協会理事 岡部陽二)

(2008年11月1日発行、日本個人投資家協会月報「きらめき」11月号所収)

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