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<投資教室>NISA(ニーサ)の賢い活用法

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 譲渡益・配当への10%課税を続けてきた証券優遇税制の終了を受けて、20141月から新たな「少額投資非課税制度」が発足する。新制度の愛称はNISA(ニーサ)と決められ、101日の受付開始に向けて金融機関間での激しい口座開設争奪戦が繰り広げられている。

「年間100万円の株式・株式投信購入にかかる20%の譲渡益・配当課税を免除する」ことにより「約1,500兆円ある家計金融資産について、自助努力に基づく長期的な資産形成を支援・促進し、家計からの成長マネーの供給拡大を図る」ことに新制度NISA(ニーサ)の狙いがあるとされている。

NISAのお手本となった英国のISAは、表1の右欄に示した通り、19994月に導入され、当初は時限立法であったが、2008年に恒久化された。年間拠出可能額は2008年以降毎年増額されて、現在株式型ISA11,280ポンド(約175万円)、限度額がこの1/2の預金型ISAを加えて年間約263万円までの新規投資が無税扱いとなっている。

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英国では今や国民の約4割がISA口座を保有、株式型ISA残高の16%が株式、79%が投資信託の購入に向けられ、ISAを通じて購入された投信は総投信残高の2割を占めている。ISAの特徴は平均保有期間が6.5年(2011年実績)と長いことで、ISAを活用した幅広い階層の長期証券投資が定着している。

そこで、当面のNISA活用法と将来に向けての制度改善策について、英国のISAIndividual Savings Account) を参考に、以下に考えてみたい。

NISA(ニーサ)の活用法

 そもそも、NISAの仕組みでは値上がりにより将来譲渡益が見込まれる可能性が高い投資でないと非課税のメリットを享受することはできない。ところが、NISAの概要は表1左欄の通り、一件の投資対象(株式・公募株式投信)の保有期間が最長5年内と限定されているので、当面は5年を超える長期投資には適さない。

逆に、NISAでは譲渡損失の繰り延べや損益通算が一切認められていないために、特定口座での保有よりも税制面で不利になるケースの多発が懸念される。たとえば,NISA100万円で購入した銘柄が5年目に50万円に値下がりし、6年目には値を戻したので80万円で売却した場合には、5年目にNISAから特定口座へ移す評価額が50万円となるため、NISAでの免税メリットはゼロ。一方、特定口座では売却益30万円と認定されて、20%(6万円)の譲渡益課税が行なわれる。実際は20万円の投資損失であるにもかかわらず、6万円の税金を支払うという不条理な事態に陥る訳である。

したがって、NISAでは短期間で値上がりするであろうと見込まれる個別銘柄を毎年1銘柄100万円内で購入し、5年内の好タイミングで売却するのが得策である。

株式をNISAで購入する際のもう一つの障碍は、不動産株やリートの一部など限度額の100万円内では購入できない高価格銘柄(1銘柄;100万円以上、もしくは単位株;1,000株で時価1,000円超など)の存在である。

NISAへ組み込む対象商品として、金融機関ことに銀行は公募株式投信(公社債投信以外のすべてを指し、株式には投資しない外債投信やリート、ETFなども含まれる)を推奨しているが、現在売られている株式投信のほとんどはNISAには適さない。

1に見られるように日本籍の投信の平均保有期間は2年程度と短く、英国のISA向け投信の1/3にも満たない。NISAの保有限度5年に比しても極端に短い。ことに、現在売れ筋の分配金を大きく設計した「毎月分配型」投信はNISAには向かない。収益を配分せずにファンド内に再投資しないことには、譲渡益は期待できず、NISAの節税メリットも享受できないからである。また、投信は手数料が高過ぎるので、選択するとすれば、リートやETF投信辺りに絞ったネットでの投資に限定すべきであろう。

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将来に向けてのNISAの改善策

1、口座開設期間:10年と非課税期間;最長5年を撤廃して、制度を恒久化する


2、
年間投資額を200万円に引上げる2016年からは国債など公社債も対象に加えられるものと予測されているが、その際には公社債は別枠とすべきである。

3、投信運用会社には
NISA向けの長期投資に適した投信商品の開発を求めたい。

4、東証には、すべての上場株式などについて
1件の最大売買価額を2030万円程度に抑えるように、発行会社に対する強力な指導を求めたい。

 このような改善が実現するまで、個人投資家としては、現制度の中で非課税のメリットを最大限に活かせるように、これから運用する資産の中で期待できる投資収益 率が最も高い個別株式銘柄などへの投資をNISAに振り向けるのが賢明である。

日本個人投資家協会理事 岡部陽二)

2013711日、日本個人投資家協会発行・月刊機関誌「きらめき」20137月号所収)

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