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投資の壁は「単元株制度」にある? 政府・東証は即時廃止の決断を。

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 岸田政権が目指す「貯蓄から投資へ」は実現するのか。

 政府はNISAの恒久化と積立限度の引上げを一挙に行い、個人投資家の株式投資支援に舵を切った。NISAの恒久化は高く評価されるが、政府・東証には若者が気軽に株式投資ができる制度を整える環境の整備にもう一汗かいていただきたい。それは、100株を最低売買単位と定めた「単元株制度」の廃止である。単元株廃止と並行して株主総会プロセスの全面的電子化(ウェブ化)の実現を期待したい。

 「単元株制度」の罪は根深い。単元株制度のおかげで、興味をかき立てられる企業があっても大金がないと株が買えないしくみとなっているのである。これは若い世代にとって険しい「投資の壁」となっている。

 この制度の廃止については、つとに日経新聞がキャンペーンを展開しているが、政府・東証は耳を傾けようともせず、他のメディアも総じて無関心であるのは解せない。解決策を具体的に考えてみたい。

政府は「資産所得倍増プラン」の中に単元株制度の廃止を盛り込むべき

 ユニクロ株は850万円、アップル株は2万円。

 下のイラストはユニクロ株、アップル株を購入するのにそれぞれ必要な資金ボリュームを貯金箱で表現したもので、アイロニーが効いている。(個人投資家山下耕太郎氏の記事、https://kabumado.jp/re_20220913/

 同記事では日本の個人金融資産が2000兆円を超えたもののそのほとんどは現金・預金であり、なぜいつまでも株式投資が浸透しないのかと疑問を呈し、理由のひとつを「単元株制度」と指摘している。

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 この問題の論点については「2022年8月9日付「日本經濟新聞」社説」が簡にして要を得ているので、そのまま引用させていただく。

  "多くの国民にとって、投資は身近な存在とはいえない。理由のひとつは、日本株を購入する際に高額の資金が必要となる市場のしくみにある。個人金融資産を投資へと動かすために、政府や取引所、企業は現状で100株からしか買えない日本株の売買制度を1株から買えるよう改めるべきだ。

 株の購入にまとまったお金が必要なのは、日本には独特の「単元株制度」があるからだ。上場企業は株主総会の1票の議決権を与える「1単元」を100株と定め、東京証券取引所は株の最低売買単位を1単元としている。

 東証プライム上場企業の1単元価格は平均で約24万円だ。最も高いファーストリテイリング株は800万円を超え、キーエンス株は約555万円、東京エレクトロン株は約455万円だ。これら約30銘柄は、年上限額が120万円の一般NISA(少額投資非課税制度)では買うことができない。

 これでは複数銘柄に分散投資するには多額の資金が必要で、一般の個人にはハードルが高すぎる。各種のアンケート調査では、多くの個人が投資をしない理由として「知識不足」と並んで「資金不足」を挙げている。

 一方、欧米株は1株から購入できる。米国株はアップル株(約165ドル=約2.2万円)など米主要500銘柄が平均170ドルから買える。政府が単元株制度を温存したまま「貯蓄から投資へ」を促す政策を進めれば、個人マネーが日本株ではなく米国株などに流れている状況が加速しかねない。

 単元株制度の廃止に抵抗するのは企業だろう。株主数が増え、株主1人あたり年1000~2000円とされる株主管理コストが膨らむ可能性があるからだ。

 これらはデジタル化で削減可能なコストだ。2023年に総会資料の電子提供制度が始まる。株主名簿を管理する信託銀行もデジタル化で費用を圧縮できよう。

 パナソニック創業者の松下幸之助氏は多数の国民が株主として経営に参画することが、企業の成長につながると説いた。企業は株主の増加を前向きに捉え、個人の投資を妨げている単元株制度の廃止に積極的に協力してほしい。

 1株単位売買の実現は全上場企業を巻き込む改革であり、政治のリーダーシップが必要だ。岸田文雄政権は、年末にまとめる「資産所得倍増プラン」の中に単元株制度の廃止を盛り込むべきだ。"

 最終パラグラフで、政府は2022年末にまとめる「資産所得倍増プラン」の中に盛り込むべきと提言されたが、これは2023年9月現在も無視されている。今年末までには実行していただきたい。

「単元株」制度の廃止は個人投資の敷居を下げる第一歩 

 来年2024年のNISA改正では、せっかく一般NISA枠が新しく「成長投資枠」となって投資額の上限が大幅に引き上げられるのに、たとえば毎月10万円の投資で買える日本株は全上場株式の4割にも満たない。年間上限の240万円をすべて1銘柄につぎ込もうとしても、240万円を超えるために決して買うことができない東証株は10銘柄にも及ぶ。

 東証全上場銘柄の平均単元価格は現在約24万円であるが、5%を占める185銘柄は50万円を超えている。このような1単元の高株価が個人投資家を株式市場から遠ざけている現実は理不尽である。

 単元株制度が個人に投資を踏みとどまらせている事実は日本証券業協会のアンケート調査でも明らかである。2021年に行なわれたこの調査によると、株式投資の意欲はあるがまだ投資していない理由は「十分な知識をまだ持っていない」に次いで「株式投資をするほどの資金がない」が2位となっている。アップル株のように2万円から投資できれば、個人投資家の裾野が大きく広がることは間違いない。

 少額投資のニーズに応えるため、証券会社各社は1株単位で買える「ミニ株」のサービスを実施している。だが、このミニ株制度ではコスト高となるうえに、リアルタイムでの取引はできない、名義は証券会社のままとなるため、配当は受け取れても株主優待は受けられないといった不都合が多い。

 「日本では、単元株制度の存在が個人投資家向けの証券サービスのイノベーションを阻害し、若年層の株取引が爆発的に増えている米国に後れをとる原因の一つとなっている」と、野村資本市場研究所(米国駐在)の岡田功太主任研究員は指摘している。

単元株制度は、過去の証券トラブルのトラウマを引き摺っている

 単元株制度は、1株運動(一株を取得して株主総会で抗議活動を行う社会運動)を阻止する目的で1981年(昭和56年)商法改正により導入された「単位」株制度の流れを汲むとされている。

 海外に例のない日本独自の単元株制度であるが、以前はいまよりさらに使い勝手の悪いものであった。単元株の売買単位が1株から1,000株まで8種類もあったのである。

東証は2007年11月にようやく「売買単位の集約に向けた行動計画」を発表し、8種類あった売買単位を最終的に「100株」の1種類だけに集約することとした。そして11年をかけてやっと、18年10月に全銘柄の売買単位が100株に揃った。

 この売買単位の統一は05年にみずほ証券が「61万円1株」を「1円61万株」と間違って入力した旧ジャイコム株の大規模誤発注がきっかけであった。ただ、なぜこの時に東証は1株ではなく、100株を単元株とすることとしたのか、その理由は分からない。真相は不明ながら、06年のライブドア・ショックが影響したものと推測されている。ライブドアは株式需給の歪みを使った株価のつり上げを狙って100分割など極端な株式分割を繰り返し、1売買単位を数百円に下げた。その後の経営悪化で、小口売買が急増し、東証は売買停止に追い込まれたのである。

 この悪夢から、2018年に東証は単元株を100株とし、さらに最低売買額を5万円以上と定めた。当時の東証の売買システムでは大量発注に対応できなかったが、2010年には新しい「アローヘッド」を稼働して注文処理能力が格段に上がったので、現在この問題はない。そこで東証も本年7月28日からこの「最低投資額5万円以上」の規定は撤廃したが、これだけでは不十分である。すべての上場銘柄を5万円程度で買えるような強力な措置を東証に求めたい。

 東証が売買単位の引下げに消極的で、上場企業もこれをよしとしてきた理由には、前述したように1970年代から活発化した「1株運動」のトラウマがあろう。1株だけ買って総会に乗り込まれては困るという思惑が働いたのは理解できるが、総会屋の問題は現在ほぼ解消している。

 唯一残った反対理由は、上場企業の株主管理コスト負担増の課題である。上場企業は、株主1人当たりで年間1,000円~2,000円程度の管理コストを負担しているものと推測される。これは議決権行使事務を代行する信託銀行に支払う費用や株主総会資料の印刷・郵送代である。このコストは株主数に応じて増えるので、売売買単位の引下げに反対を主張する企業側の最大の理由となっている。

 本年9月9日付けの日経紙インタビューで、日本取引所グループの新CEO山道裕己氏は時代錯誤の理由を能天気に堂々と発言している。いわく、「総会通知などを郵送する必要があり、株主急増は企業側の負担になる。広く影響があり、1単位の売買がすぐに実現とはいかない」。

 東証は政府に働きかけて、このコスト増問題を電子化(ウェブ化)で抜本的に解決すべきではないか。

株主総会プロセスの電子化(ウェブ化)後進国・日本

 日本では招集通知をはじめとした株主総会関連書類を書面にて株主に送付するのが一般的であるが、米国等では電子的方法の普遍化に向けた取組みを過去数年にわたり強化してきた。少し古い数字しか見当たらないが、米国では株式数ベースで約 6 割、株主数ベースでは約 8 割の個人株主が、電子的方法で株主総会関連書類を受領している(2015年現在)。

 これに対し、日本の上場企業で招集通知の電子的方法による通知を採用している会社は44 社(2015 年総会)であり、全体の 2.6%に留まっている。これは電子化にあたって、個別に株主の承諾を書面でとらなければならないという荒唐無稽な制約があったためである。

 遅ればせながら、2022年9月1日に施行された改正会社法により、2023年3月以降に開催される株主総会から、株主総会資料を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載し、株主に対して当該ウェブサイトのアドレス等を書面により通知する株主総会資料の「電子提供制度」が開始される。書面での資料提供を希望する株主は、発行体に対して当該株主総会資料について書面での交付の請求ができるよう措置されている。

 新制度のもとでも、議決権行使書は原則として従来どおり送られ、配当金の支払通知書も郵送される。招集通知など株主総会関連書類の発送・返送、議決権の行使、配当金の支払い...政府はこの際、こうした株主総会関連の事務はすべて原則電子化する要がある。書面による通知は1回限りとして、いったん電子化すれば、次年度からは郵送はやめるべきである。

 これにより、おそらく上場企業のコスト負担は1/10程度に軽減され、ほとんど株主に読まれることもなくゴミ化している紙の節減による資源の節約効果も大きい。

 議決権の行使はかなり電子化が進んでいるが、これも手続きがあまりにも煩雑であり、個人投資家にとってはむしろ迷惑な制度である。そもそも、この事務代行を一握りの大手信託銀行が独占しているのは理解し難い。スマホを利用し、マイナンバーを活用した簡便な議決権行使システムを低コストで行なってくれる新興企業などに参入の機会を開放すべきである。



無議決権株を株主総会関連事務コスト削減に活用するのも一策

 株主管理コストを下げ、しかも経営支配の問題も回避できる一挙両得の方策もある。無議決権株の活用である。

 無議決権株とは、株主総会での議決権を持たない、または制限されている株式のことである。 配当や売却益に関心があるものの、議決権を通じて企業の経営に参加する意志がない投資家を集められる。

 米国では全上場企業の7%が買収防衛などさまざまな目的で無議決権株式を発行している。日本でも、2001年の商法改正によって、それまで優先株式に限定されていた議決権制限株式の発行が、広く認められるようになったが、今のところ上場企業では伊藤園1社が無議決権株を発行しているに過ぎない。

 伊藤園の第1種優先株式は、株主優遇と絡めたもので、議決権を与えない代わりに配当が普通株の1.25倍と高く、同社製品の株主優待も付いている。これは、株主総会関連コストの削減を主目的としたものでないものの、コスト削減として有効であろう。

 繰り返すが、新NISAの成長投資枠で個別株への投資を個人に促すことができても、4割もの銘柄が10万円内では買えないのは国にとっても企業にとっても損失である。

 「単元株制度」は、株式投資を一部の富裕層にだけに絞る限る悪習である。東証は値がさ株の企業には株式分割を呼びかけるだけで、本質的な改革を怠っている。

 株の最低投資金額は低ければ低いほどよい。東証はあらゆる知恵を絞って、すべての銘柄を1株から5万円程度で買えるように工夫を凝らすよう全上場企業に指示すべきである。

 社債については、これまで100万円が取引の最低単位であったものが、デジタル技術を活用して発行や管理にかかるコスト削減を実現し、本年度内に個人投資家が1万円で単位で買えるようにするインフラが整備された。株式についても、同様の売買単位1/100化を早急に実現していただきたい。

(日本個人投資家協会 監事 岡部陽二)

(2023年10月2日発行、日本個人投資家協会機関誌「ジャイコミ」2023年10月号「投資の羅針盤」所収)>












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