昨年11月24日、米国のNYダウ株価は、史上初めて3万ドルを超えた。新型ウィルス感染で急落した3月の水準から1.6倍もの急回復であり、歴史的な高値更新記録であった。株価の上昇は今年に入っても続いている。
この高値は世界的な大型金融緩和が続く中で、緩和マネーが市場に流れ込んだバブル現象と見る向きも多いが、市場はコロナ禍収束後の実体経済回復を織り込みつつあると見ることもできる。
この米国株高を支えて来たのはGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)に代表されるハイテク系のグロース株であった。昨年初来の株価上昇率はアマゾン60%、アップル45%と、市場平均を大きく上回っている。
いっぽう、バリュー株の値上がりペースは緩く、割安感を一段と高めている。最近では、バリュー株復活の兆しも見え始めているが、出遅れ感は否めない。
そんななか、昨年8月末には、米国最大の投資会社であるバークシャー・ハザウェイが典型的な高配当・バリュー株である日本の5大総合商社株をそれぞれ5%を超える比率まで取得し、価格次第では最大9.9%まで保有比率を高める可能性ありとニュースが流れ、市場を驚かせた。
株式投資の醍醐味はグロース株にあるものの、大きなうま味をもつバリュー株について今回は考えてみたい。真のバリュー株は安定的な配当収入が見込め、長期保有に適している。それを見極めるにはどうすればよいのだろうか。
米国株にはバリュー株が豊富
バリュー株(割安株)とは、企業価値〈収益力+資産〉に対して、株価が割安な銘柄を指す。
株価が割安であれば、その分、配当利回りが高くなる傾向があるので、バリュー株と高配当株はセットで語られることが多い。
米国では、S&P500について、グロース株、バリュー株、高配当株の3つの株価指数が発表されている。(図1)
この株価指数の2020年年間推移を見ると、S&P500銘柄のうち、グロース株が年間で2割強もの値上がりを実現しているのに対して、バリュー株は年初の水準を下回っている。バリュー株は明らかに過小評価されてきたので(これほどバリュー株が割安に放置されている状態は歴史を振り返っても稀である)、脱コロナの期待が高まるにつれて見直される可能性は高いとみて差し支えなかろう。
一般に国債金利が低いとグロース株が買われ、高いとバリュー株が買われるので、遠くない将来の金利上昇を考えてもグロース株からバリュー株へ資金がシフトする公算がある。
では、これから狙い目のバリュー株はどのような銘柄であろうか。
まず米国株であるが、SBI証券の資料を基に昨年12月19日付のダイヤモンド誌が掲げているS&P500リストを見ると、11セクターのうち7セクター16銘柄が例示されている。医薬品メーカーのアッヴィーや、製造業の3Mなど、増配年数が長期にわたっていることで有名な銘柄も含まれており、一定の安心感のある銘柄に絞られている。
やや意外なのは、銀行株がしぶとく3銘柄も上がっていることであろうか。通信サービス株ではベライゾンが選ばれ、7%を超える配当率を維持してきたAT&Tが含まれていない。
AT&Tについては、今期の減益予想が嫌気されたものと見られるが、PERは9.1%と低く、長期保有を前提に考えると別の見方もできよう。
日本株の中からバリュー株を探し出すのは、至難の業
米国株のように、日本株の有望バリュー株リストを作成するにはどうすればよいか。ネットを検索しても答えは見当たらない。そもそもバリュー株の定義自体がまちまちであり、日本株についてはS&P500のような便利な指数も存在しない。
東証一部上場2,179社の33業種別データから1業種20銘柄以上のセクターについて、今年度の予想PBRが1.00倍以下の低PBR業種を拾ってみると、建設、鉄鋼、非鉄金属、金属製品、倉庫・運輸、銀行、証券・商品、その他金融の8業種、352銘柄が数えられる。8業種の中で予想配当利回りが高いのは、銀行;3.62%、建設2.98%、証券・商品;2.80%である。(表1)
この500銘柄あまりの中には、真のバリュー株が数十銘柄はあろうが、それを検出する手法があれば、教えていただきたい。セクターとしては、建設、銀行をバリュー株と評価する見方はあるが、何れも業界を取り巻く環境には厳しいものがあり、当面はともかく、安定的な成長を見込むのは難しい。
バークシャー・ハザウェイの総合商社発掘は慧眼
総合商社が入っている卸売180銘柄のPBRは1.01とわずかに1.00を上回っているものの、この中から、総合商社5社のみを切り出してみると、PBRは0.73倍と低く、配当利回りは4.7%と業種平均の2倍ほど高い。
バークシャー・ハザウェイを率いるウォーレン・バフェット氏は「同社が日本の投資先として選んだ日本の総合商社と未来を共有することができることを嬉しく思う。5大商社は世界中で多くの合弁事業を手掛けており、こう言った取り組みをさらに増やす可能性がある。将来、相互利益の機会が生まれることを期待している」と自社が関与する事業とのシナジー効果を強調した発表をしている。
この発表文を読むと、同社の投資は単に総合商社をバリュー株とだけ見ているのではないとわかる。つまり、純粋な投資価値を評価したとか、将来の資源価格回復を見越して投資したという話ではなく、総合商社との〈協調投資〉を図っているのである。新規投資先の開拓に役立てるための、長期的な投資戦略の一環と位置付けられているようだ。
日本の総合商社のような業態は欧米には存在しないため、米国の機関投資家の投資対象に日本の総合商社は入っていなかった。
じつは日本の総合商社は近年、投資会社としての性格を強めている。バークシャー・ハザウェイは自身が投資会社なので、そんな日本の総合商社に親近感を抱いたのは、きわめて自然であろう。
意外と知られていないが、バークシャー・ハザウェイは上場企業に投資しているだけでなく、有望な企業であれば非上場企業の経営権を取得して育成する、というスタイルの投資にも力を入れている。
ただそうは言っても、同社は割に合わない投資は絶対に行わない。日本の総合商社はPERもPBRも市場平均に比してきわめて低く、配当利回りが高いので、そうした客観指標が大前提となっていることは間違いない。
バークシャー・ハザウェイの投資哲学から学ぶ個人投資家への示唆
日本の総合商社に目を付けて集中投資をしたバークシャー・ハザウェイの投資スタイルを設計したのは、ウォーレン・バフェットの右腕とされているチャリー・マンガーである。このマンガー氏の言行録を解説したデビッド・クラーク著「マンガーの投資術」(日経BP社、2017年9月刊)からバリュー株投資への取り組みのあり方のいくつかを摘出して次に掲げる。
まず、マンガー氏は「バリュー株投資とは、現時点でPBRが低く、配当利回りが高い銘柄を買うことではなく、適正な価格で買える優良企業を求めることである」としている。優良企業とは長期的に利益と資産を成長させ続けることが可能な会社のことである。
マンガー氏によれば、適正な価格で売られている優良企業は、割安な価格で売られているそこそこの会社よりも優れている。
1、間違って価格づけされた賭け札を探すこと、それが投資である。ただし、その賭けが間違った価格なのかどうか分かる十分な知識を持っていなければならない。それがバリュー株投資である。
2、「手っ取り早く金持ちになりたい」という欲望は非常に危険である。じっくり検討をして、本当に優良企業の株を手に入れることができたなら、後は座ったまま何もする必要がない。すばらしいことだ。
3、株式投資では、座して待つことが重要である。待つことは、投資家にとって大きな助けになる。多くの人は待つことができない。私が成功できたのは、集中力が長く持続する忍耐力があったからである。じっと身を伏せて、向かい風をやりすごしていれば、やがて成果を手にすることができる。
4、正確に予測することはできない。厳密な予測に基づいて儲けようとは考えていない。よい会社の株を買って持ち続けることしか私にはできない。
5、金融機関は危険な存在である。何事も複雑であれば、必然的に不正や誤りの温床になる。金融機関について正確な数字を知ろうとするなら、迷路に足を踏み入れることになるだろう。銀行が自らを律することができるとは、とても考えられない。
6、あらゆる場面で手数料を取られ、ぼったくられる可能性がある。
7、金融論の教授の言うことはあまり気にしないようにしている。彼らは魔法の世界に住んでいるのだから。
平成28年の金融庁の調査レポート「お金を働かせる米国人、自分が働く日本人」によると、米国人の収入のうち1/3は株式投資等の財産からの所得と報告されている。たとえば、年収900万円の米国人は、そのうち300万円が配当などによる収入ということである。一方の日本人は、ほとんどが労働による収入で、金融資産の過半が利率0.1%以下のほとんど利息の付かない貯金である。
しかも、数少ない株式投資をしている個人投資家も投機性の強いグロース株投資が中心で、長期保有で配当収入を重視するバリュー株投資には関心が薄い。
この構造的な個人金融資産問題の解決には、日本人全体の金融リテラシーを高めることで、お金の不安を減らし、明るい将来を描けるようにするしかない。
(日本個人投資家協会監事 岡部陽二)
(2021年2月1日発行、日本個人投資家協会機関誌「ジャイコミ」2021年2月号「投資の羅針盤」所収)