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創設20年...株式を上回る高利回りのJ-REIT投資を見直そう

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  J-REIT(国内不動産投資信託)が昨年9月に創設20周年を迎えた。成長には目を見張る物がある。62銘柄、時価総額17.0兆円(2021年末)に達し、私募REITを含めると、22兆円となる。住友不動産、三井不動産、東急不動産などに代表される不動産関連銘柄の時価総額は13.7兆円(2021年末)であるから、これを大きく超えている。(図1)
 220501図1J-REITとTOPIXとの時価総額推移.jpg

 
 国際比較では、36年先行している米国REITに次ぐ世界第2位の市場規模となった。

 注目すべきは、その間の平均投資利回りが年率8.6%と高く、雇用創出は170万人と言われ、何よりもバブル崩壊で壊滅していた不動産市場の活性化に寄与した点にある。デフレ脱却に大きな役割を果たした経済効果は高く評価され、今後のさらなる成長期待も大きい。

 かたや、J-REITに投資しているのは機関投資家と海外投資家がメインで、個人投資家の保有比率は7.4%に過ぎない。高利回りで長期投資に格好のJ-REITに個人投資家が目を向けないのはなぜか、考えてみたい。

レバレッジ効果で株式よりも高配当

 REITとはおおぜいで大家さんになり、物件を調達して家賃収入を分配するインカムゲイン目的の投資信託である。ひとくち馬主と似ているかもしれない。インカムゲイン目的なので投資信託の価額は上がらなくてもよいのだが、実際にはレバレッジ効果によって株式よりもトータルリターンが大きくなっているのが事実である。

 くわしく説明しよう。

 J-REITは、①不動産への投資法人をヴィークル(器)として、②エクイティー資金を公募で50%、デッド資金をほぼ同額調達し、③投資適格不動産で構成されるポートフォリオを、④運用のプロが管理し、⑤利益のほぼ全額を非課税で投資主に還元する、上場金融商品である。

 ここで確認しておきたいことは、J-REITが国策であるということである。国土交通省は、2019年4月に策定した「不動産業ビジョン2030」でこう述べている。

 2019年現在、リート等市場は、「2020年頃に資産規模約30兆円」の政府目標(「未来投資戦略2017」(平成29年6月9日閣議決定))の達成に向けて、その資産規模を拡大させているところであるが、その更に先の2030年頃においても、官民の努力により、更なる拡大を続けているものと期待される。

 投資元本に借入金を加えたレバレッジ効果によって投資利回りが嵩上げされた利益のほぼ100%の投資主還元が実現しているので、創設来20年間保有し続けた場合の利益は、配当・値上がり益込みでじつに4倍強という成績を挙げている。配当込みで約3倍に増えた株式を凌駕しているのである。(図2)

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 J-REITの総合収益率が株式を上回った主因は、J-REITの平均年間配当率が3.5%と、東証1部上場株式の平均1.7%(いずれも2021年)の2倍に達した高配当の実績による。

 また、2021年末のNAV倍率(Net Asset Value、解散価値、株式のPBRに相当)は、含み益額(鑑定評価額-簿価)が4.3兆円と着実に増加した結果、1.15倍と、健全性を保っている。

 このように、J-REITの高い収益率は、保有資産の価値に裏付けされたもので、バブルとは言えない。J-REITの1口当たり分配金とNAVの成長率を過去5年ごとに分けてGDPの成長率と対比してみると、すべての期間においてGDPを上回る伸びを確保しているからである。

世界の上場REIT市場も順調に伸長、平均投資利回りは株式を上回る

 世界の上場REIT市場を見てみよう。第1号が上場されたのは1965年の米国。2000年までにREATを導入したのは7カ国と少なかったが、2000年代に入ってからは急速に広がっていって、昨年には中国が加わって41カ国に達している。

 2021年3月末時点での上場銘柄数は1,217、時価総額は238兆円。リーマンショック時と新型コロナ発生時に若干落ち込んだものの、銘柄数・時価総額ともに一貫して上昇し続けてきた。

 時価総額では、米国が62.8%と全体の2/3を占め、次いで日本、オーストラリア、英国、シンガポールが続いている。

 注目すべきは、グローバルREIT がJ-REIT以上に総合収益率を伸ばしており、伸び率が株式・国債を上回っている実績である。(図3)

220501図3世界REIT指数と株式のパーフォマンス.jpg



 最近時点でのグローバルREITのトータルリターンは3.2%と、株式の1.8%、国債の1.2%に比して、格段に高い。

J-REIT市場拡大の将来展望は明るい

 J-REITの市場規模は世界第2位につけてはいるものの、GDP比では3.0%と、米国はもとより、シンガポールやオーストラリアよりもかなり小さい。J-REITは今後一段の拡大余地が大きく、高成長が期待できる好環境下にあることを如実に示している。(図4)

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 岡三証券研究所のレポートでは、2020年代末に⽇本のREIT市場規模は50兆円と現在の3倍程度に増える可能性を秘めていると報じている。その場合、J-REITの市場規模は社債市場並みとなり、多くの投資家のポートフォリオが求める重要な資産クラスになる。

 このような動きを加速させるには、30年以上先行している⽶国の事例を参考にした組み入れ対象の拡大や仕組みの改善、売却時の譲渡益課税繰り延べ制度といった税制の変更を早急に実現する要がある。

 日本は人口が減っていくのにJ-REITに投資しても大丈夫か、という疑念もありそうだが、不動産需要の先細りは競争力のない不動産に対して言われていることであり、そのほとんどは自己所有の老朽化した建物や空き家である。J-REITが保有するのは一等地の賃貸不動産なので、人口減少の影響はほとんど受けない。

 また近年は晩婚化や未婚化で単身世帯が増加していくことが見込まれる。住宅の必要戸数は「人口」よりも「世帯数」によるので、この点からも人口減少の影響は心配しなくていいだろう。

米国REITの多様性と運用の柔軟性に注目~米国に学ぶべきJ-REITの改善点は多い

 米国REITとJ-REITの投資対象をセクター別に比較すると、J-REITはオフィス40.3%、物流施設18.1%の合計で6割弱を占めている。これに対し、米国REITでは オフィスと物流施設の合計は13.3%に過ぎず、インフラ、産業施設、医療施設など多様なセクター構成となっている。(図5)


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 このセクター別構成比の違いは、これまで不動産会社や商社主導でオフィス・物流施設中心に拡大して来たJ-REIT市場には、今後はインフラ関連や医療・介護施設などへ拡大できる余地がきわめて大きいことを示唆している。

 日米REITには制度上も大きな違いがある。①日本ではREITを不動産を保有目的のみの器に特化しているのに対し、米国では保有だけではなく、デベロパーとして開発の段階からREITを組成できる。

 さらに、②米国では投資法人を株式会社化でき、従業員を雇って、自社で運用する方式が主流であるのに対し、日本では投資運用をすべて外部の資産運用会社に委託することが義務付けられている。J-REITにおける投資法人は「器」に過ぎないのに対し、米国では1986年の法改正来、REIT自らが不動産開発の段階から保有・賃貸まで一貫して行うことができるようになったメリットには大きなものがある。

 日米REITのもう一つの違いは、③1992年に導入されたUP-REIT(Umbrella Partnership REIT)という、不動産オーナーが不動産をREITに現物出資した場合に、売却益を繰り延べて節税できるという仕組みである。これにより米国では優良物件のREIT化が加速した。

 日本の不動産市場は1,500兆円程度とされるが、収益不動産は約200兆円に留まり、投資市場になり得る分野は限られている。今後の課題は、法人所有の不動産を収益不動産として流動化を進める方策の開発にある。現に多くの企業が企業所有の不動産の価値最大化を図る戦略に転じているので、そのための方策として、所有と運営を分離し、収益不動産をJ-REIT組入れる動きを促進すべきである。

 また、公的不動産市場が約600兆円もあることを背景に、公的セクターによるREITの組成も今後の課題になる。膨大な公的債務を抱える国や自治体が公的不動産のREIT化で財政再建に資することも可能となる。

個人投資家のJ-REIT投資を増やすには

 このように、REITでの資金調達の潜在需要は大きく、機関投資家や外国人からの投資意欲にも根強いものがある一方、個人投資家のJ-REIT保有比率は、冒頭に掲げたように、7.4%と極端に低い。しかも、個人は昨年には2,158億円もJ-REITを売り越している。逆に、海外投資家は2,605億円の買い越しとなっている。

 他方、米国にはREITの投資主体別保有状況を示す市場統計は存在しないが、個人の保有が過半を占めているものと推測される。機関投資家は、おもに私募REITに依存しているからである。

 個人投資家が収益性のきわめて高いJ-REIT投資に目を向けないのは、証券リテラシーの欠如に尽きるとの見方もある。

 しかしながら、やはり高齢者富裕層を抑えている大手証券の回転売買志向によるところが大きいのではなかろうか。J-REITは長期保有を前提とした金融商品であるから、売買頻度は少なくなり、取引回数べースでの売買手数料収入は伸びないので、顧客に推奨しないのは当然である。

 大手証券にも預かり資産ベースでの手数料に切り替えていこうとする動きもある。たとえば、野村證券は昨年4月から「レベルフィー」を呼ぶ新たな資産ベースでの手数料体系を準備し、これを顧客に選んでもらう選択制を試行している。それでも、資産残高に対する手数料の最高は税込みで1.65%になるといわれており、米国での平均0.5%と比べて結構高い。

J-REIT運用会社の企業努力に注目

 三井物産デジタル・アセットマネジメントは、昨年12月に神戸市の六甲アイランドの物流施設を裏付けにした、低コストのデジタル証券として一口50万円でのJ-REITファンドをネットで公募した。30~60歳代を中心に数時間で完売されたと報じられている。

 不動産は見た目で分かり易く個人投資家にも訴求力のある分野であるにもかかわらず、古い体質の業界でデジタル化はほとんど進んでいない。デジタル化で販売や管理コストを低減し、スマホのアプリから簡便に投資できるようにしたメリットには大きなものがある。J-REITのデジタル証券化の今後の展開に期待したい。

証券会社の外国籍REIT販売に期待

 さらに、米国の機関投資家向け私募REITを日本で個人に照準を合わせたファンドとして販売する計画も進んでいる。米ブラックストーンが野村証券と組んで、4月15日に販売を開始した「ブラックストーン米国不動産インカム投信」は米ドル建てで、最低5万ドルから米国の不動産に投資できる。

 ただし、この投信は購入時手数料;3.30%、管理報酬;年率1.25%と、購入時手数料;0.5%程度のJ-REITに比して滅法高い。高配当が見込まれるとしても、これではペイしない。

 とはいえ、ブラックストーンの米国REITを日本で購入できるようになるのは歓迎すべき進歩であるが、筆者としてはかねてよりニューヨーク市場に上場されている153銘柄の米国REITを米国株同様に自由に購入できるようにすべきと要望している。

 現状では、ネット証券を含めどの証券会社も米国REITを取扱っていない。REITは投信の一種であるので、目論見書の事前交付が求められている。証券会社はこの目論見書の日本語訳に手間が掛かることを取扱わない言い訳としているようであるが、金商法上は翻訳の必要はなく、翻訳するとしても年翻訳機でコストをほとんど掛けずに可能である。

 米国REIT、さらにはオーストラリアなどの外国籍の上場REITを日本で自由に購入できるようになれば、J-REITにも大きな刺激を与え、市場の活性化に寄与することは間違いない。

(日本個人投資家協会 監事 岡部陽二)

(2022年5月1日発行、日本個人投資家協会機関誌「ジャイコミ」2022年5月号「投資の羅針盤」所収)













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