わが家の応接間には前後13年に及んだ住友銀行ロンドン駐在時代の懐かしい思い出として、私共夫婦と一緒に撮って貰ったチャールズ皇太子の写真(上掲)と帰国時に殿下より頂戴した感謝状(下掲)の額を掲げてある。皇太子をお友だちとして紹介するのは不敬の謗りを免れないかも知れないが、最近のダイアナ妃との不仲・別居についてのマスコミの報道は、非は挙げて殿下側にありとする一方的なものが目立ち、我慢出来ない。
チャールズ殿下と私との出会いは、殿下自らの主導で80年代初めから献身的に進めて来られた都市の美観を守る運動、地球を環境破壊から守る運動に加えて、開始された企業の地域社会との共生を提唱するビジネス・イン・ザ・コミュニティーの運動に参加したのが機縁であった。このキャンペーンの対象地域を東欧諸国へ拡大するなどの「国際版」を始めるに当たっての協力を我々外国企業にも求められた訳である。
そこで、殿下率いるミッションの一員としてプラハやブダペストを訪問、地場の企業家と話しあった後、我々スタッフとも議論を重ねた結果、直ちに東欧への投資基金の創設や英国での東欧の若手経営者向け市場経済研修プログラムなどが次々に実現した。このような次第で、殿下に顔と名前をしかと覚えて頂いた数少ない日本人の一人となった。
殿下はプロ顔負けのスポーツマンであると同時に、何よりも自然や田園を好まれる思索家であり、会合の席で常々感心したのは、参加者一人一人の意見にじっくりと耳を傾けられ、殿下自身は最後にまとめ役として発言される真摯な態度であった。ご発言の内容は常に極めて具体的で、時には政府の政策批判まで飛び出して物議を醸すこともあったが、「王室は売春宿と共に世界最古からの職業である」とか「伝統建築の外壁保存の主張故に最も嫌われている英国人と自認している」といった際どいユーモアたっぷりのアドリブ発言が今でも忘れられない。
(おかべ・ようじ=明光証券会長)
(1994年10月19日付け発行、日本経済新聞最終頁「交遊抄」所収)
<追記>
16年後の2010年4月23日付け日経新聞朝刊「文化」欄に息子・徹の下掲「交遊抄」が掲載されました。