今年の八月に満九十歳になりました。これまで大病を患ったことはありませんでしたが、昨年2月ごろから腰に痛みを感じ、歩行時には足が重く感じるようになりました。
近くの整形外科クリニックで脊椎管狭窄症と診断され、ロコア・テープの貼付、消炎鎮痛剤の服用や理学療法士によるリハビリ体操などの保存療法を4カ月ほど続けましたが、症状は一向に改善せず、悪化の一途を辿りました。
症状は、少し歩くと腰が痛み、50歩も歩くと歩き続けなくなって、一旦前かがみになるか、どこかに腰を下ろして休むしかなくなり、しばらく休むとまた歩けるようになる典型的な「間欠性跛行」といわれる坐骨神経痛でした。
歩行がおぼつかないので、杖を購入して、なんとか毎日の外出は続けました。ゴルフも中断せざるを得なくなりましたが、以前から予約をしていました7月の軽井沢一泊と9月の那須塩原一泊のゴルフには、杖を頼りに参加しました。何とか2回とも廻われはしたものの、プレー後の腰の痛みは激しく大変でした。
7月初に開催されました元勤務先のOB会で、このような腰痛の話をしましたところ、同僚の一人が品川にある稲波脊椎関節病院が非侵襲の腰痛治療で優れていると教えてくれました。
すぐに受診の申し込みをしたのですが、1カ月以上待たされてようやく8月10日に院長先生の診察を受けることができ、患部に硬膜外ブロック注射を打ってもらいました。この硬膜外ブロック注射の効果はなく、一か月後の9月12日の受診時には、内視鏡下での椎間関節切除手術を勧められました。
いずれは手術を受けるしかなかろうと覚悟はしていましたが、決心はつかず迷っていたところ、「とりあえず手術のための精密検査だけ行なっておいては」という提案があり、検査が有効な3カ月以内に手術の諾否を最終的に決めることとしました。
この手術に備えての事前精密検査を担当していただいたT女医との最終段階での問診で「この病院のホームページには、手術だけではなくブロック注射や高周波治療など非侵襲の治療に力を入れていると書かれている。それにもかかわらず、硬膜外ブロック注射を一回打っただけで、即手術というのは納得できません。ほかに何かよい治療法はないのでしょうか？」と訴えました。
すると、彼女は「そうですね。それでは、『神経根ブロック注射』を試してみられてはどうでしょうか。私が院長先生に頼みます」と言ってくれました。
院長先生もすぐに快諾され、即座に痛みの強い左側にレントゲン手術室で神経根ブロック注射を打っていただきました。医師も放射線被ばく防止用の透明な遮断シートを被って、レントゲンでの透視下で神経根の位置を確認しながら長さ8センチの注射針で麻酔薬とステロイドの混合液を打ち込むのです。
このブロック注射が打たれると、針先が神経に刺さった時に腰から爪先まで下肢全体に、まさに雷が落ちて電気が走ったような強い刺激を感じ驚きました。しかし、注射薬の注入と同時に痛みは嘘のように引いていきました。
2週間後の9月26日に、右側にもう一本打っていただき、腰痛は奇跡的に治りました。
T医師の迅速的確な判断と行動には、感謝の念で一杯です。
「腰部脊椎管狭窄症診療ガイドライン2021」では、注射後1～2週間は鎮痛やQOLの改善に役立つとしながらも、効果が短期間に終わる可能性もあるとされています。そのため、この神経根ブロック注射は、手術前に原因部位を見つける確定診断に活用されるなど付加的な施療と位置づけられていて、単独の腰痛治療法としては広く普及はしていないのが現状のようです。
腰痛治療のブロック注射には、注射針を刺す脊椎の部位ごとに硬膜外、仙骨、仙腸関節などいくつかの種類があります。硬膜外ブロック注射などは、クリニックでも打ってもらえますが、神経根ブロック注射は、レントゲン手術室が必要で、一般の整形外科クリニックでは施術できないことも大きな障害となっています。
「神経根ブロック注射は一時的な麻酔に過ぎず、薬が切れると元の常態に戻る対症療法」と考えられ勝ちですが、必ずしもそうではないケースもあるようです。MRIに映し出される狭窄の状態は変わらないのに、不思議なことに痛みが消えてなくなるのです。神経根ブロック注射には、麻酔によって興奮した神経を落ち着かせ「痛みの悪循環」を断ち切る、まさに「魔法の杖」の働きがあるのです。
痛みが軽減したら直ちに運動療法を始め、注射に頼らなくても痛みが出ない体の使い方を身につけて、腰痛の再発を食い止めることが肝要とされています。
そこで、再発予防を目指して真向法体操に加えてピラティス体操を始め、週に2～3回の水泳も続けております。
幸い注射からほぼ1年が経ちましたが、再発はなく、8月には富士小山カントリーで催されました東大・京大ヨット部OBの合同コンペにも参加しました。
卒寿われゴルフ楽しむ炎暑かな 陽二
