1、亡父の旧稿を上梓
住友銀行専務の岡部陽二さん(58)は今、一冊の本の重みを味わっている。ちょうど一年前に永眠した父親の元京大名誉教授、利良さんの五志十年前の旧稿を、「旧中国の紡績労働倒研究」(九州大学出版会)として先月末に出版したためだ。五百ページを超す大部だが、「原稿の一字一句に目を通した。今年の夏はほとんどゴルフも出来なかった」と言いながらも、素直に喜びを表す。
故利良さんは、会計学の権威。戦前の旧中国の工業発展の基礎を克明につづった同書は、日本ではほとんど紹介されていない貴重な内容で、晩年の利良さんが少しずつ書き直していたものを、没後に岡部さんが引き取って上梓(じょうし)した。国際派バンカーで知られるが、この本がとりもつ縁か、最近では「経済発展の目ざましい中国華南地区などへ足を運ぶことが多い」という。
(1992年12月7日(月)付け日本経済新聞、消息欄 「あの人、この人」)
2、亡父の労作50年後に出版の孝
「親不孝の償いがこれでできました」 住友銀行の岡部陽二専務は、昨年十一月に死去した父親、岡部利良京大名誉教授の五十年前の著作の出版にようやくこぎつけ、感無量の表情だ。
その本、「旧中国の紡績労働研究」(九州大学出版会)は、会計学の権威として知られた利良氏が、京大経済学部の副手時代にまとめていたもの。利良氏が亡くなった時、当時ロンドン駐在だった岡郡専務は晩年の父が出版を希望して原稿を書き直していたことを知り、原稿を取り寄せて校閲した。「この十六年間で日本にいたのはわずか三年。だいぷ親不孝をしてきた。父の遺志は継げたかも」
(1992年12月13日(日)付け、読売新聞)